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映画 大いなる幻影(1937仏) [日記(2014)]

大いなる幻影 [DVD]
原題:LA GRANDE ILLUSION
 先日『天井桟敷人々』を見て、古いフランス映画もいいものだと、名作『大いなる幻影』を見てみました。タイトルがいいですね(日本公開は1949年)。大いなる幻影、フランス映画、ジャン・ギャバン、それだけで見たくなります。

 第一次世界大戦の話です。戦争映画ですが、戦闘場面は一切ありません。フランス軍のマレシャル中尉(ジャン・ギャバン)とド・ボアルデュー大尉(ピエール・フレネー)は偵察飛行でドイツ軍に撃墜され、ふたりはドイツ軍の捕虜となります。
 撃墜したのはラウフェンシュタイン大尉(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)。12機目の撃墜だと言っていますから、独軍のエースパイロットなのでしょう。余談ですが、この人のウィスキーの飲み方はかっこいいです。グラスを口元に当て、上体を反り返して一気に飲みます。
 ラウフェンシュタイン大尉は、健闘を称えるため撃ち落とした敵機のマレシャル中尉とド・ボアルデュー大尉を食事に招待します。当時は、こういう騎士道精神のようなものがあったのでしょうか。ちなみに、ボアルデュー大尉はフランス貴族、ラウフェンシュタイン大尉はドイツ貴族です。

【捕虜収容所】
 マレシャルとボアルデューは捕虜収容所に入れられ、映画の大半はこの捕虜収容所の話となります。時代なのか演出なのか分かりませんが、この収容所では捕虜の人権が大切にされています。びっくりするのは、仏本国の肉親からから捕虜に食料や衣料の差し入れがあることです。後にマレシャルと深い関わりが出てくるローゼンタール中尉は、一族が富豪(ユダヤの銀行家)のため、コニャックやワイン、豪勢な食料まで届き、独将校や看守よりいいものを食べて優雅に暮らしています。後の話ですが、ロシアの捕虜に皇帝から差し入れがあり、きっとキャビアだろうと仏や英の捕虜が押しかけます。木箱を開けてみると、出てきたのは大量の本で一同がっかりというエピソードが描かれたりします。

 捕虜収容所の映画というと脱走です。脱走が映画のテーマとなるのは何時頃からでしょうか。この映画には、その後の脱走映画の要素がひと通り揃っています。マレシャルとボアルデューが割り当てられた部屋では、密かに脱走用のトンネルが掘られています。掘った土をコートに隠して捨てるというシーンは、この映画がオリジナルかもしれません。『第十七捕虜収容所』『大脱走』でも同じシーンがあったように思います。また、捕虜が演芸会を催し、女装してカンカンを踊るシーン、仏軍の勝利を聞いて捕虜全員が「ラ・マルセーユズ」を合唱するシーンなども同様です。
 で脱走が成功するかというと、あと少しというところで引っ越しということになります。
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【ドイツ貴族とフランス貴族】
 その後収容所を転々とし、マレシャルは脱走歴6回、ボアルデューは5回、ローゼンタールは3回という札付きとなって、脱走が不可能な古城の収容所へと移されます。ここでマレシャルとボアルデューは、収容所長となったラウフェンシュタインと再会します。ラウフェンシュタインは、戦場で全身に火傷を負い脊椎を損傷して、戦場で死ぬべきだったと嘆きます。このドイツ貴族は仏貴族ボアルデューに、貴族の時代は終わったと言います。第一次世界大戦後ドイツ帝国は崩壊しますから、ラウフェンシュタインは古いヨーロッパを象徴していることになります。
 
 ボアルデューは、自らが囮となってマレシャルとローゼンタールの脱走を助け、ラウフェンシュタインに撃たれて死にます。何故脱走しなかったのか明らかにされませんが、ほとんど自殺のように撃たれて死にますから、これもボアルデューなり身の処し方だったのでしょう。ラウフェンシュタインは、自室で育てているゼラニュームの花をボアルデューの遺体に供えます。これも、ボアルデューと自分自身、「貴族」に象徴される古い時代への手向けの花です。
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【マレシャル中尉】
 『大いなる幻影』は、ラウフェンシュタイン、ボアルデューの物語と、マレシャルの物語の二重構造になっています。マレシャルは、パリ20区(たぶん下町)生まれの技師だと言っていますから、貴族ボアルデューと異なり庶民です。マレシャルとローゼンタールは、ボアルデューが警備兵を引きつけてくれる隙にロープを伝って城から脱出し、スイス国境を目指します。スイスまでは、ドイツ領を320km突破しないとたどり着けません。脱走捕虜の身で、食料もなく、捻挫したローゼンタールを連れての逃亡は困難を極めます。
 兵士の逃亡物語だけでは面白く無いので、監督ジャン・ルノワールは、最後にメロドラマを用意してくれます。偶然出会った戦争未亡人エルザ(ディタ・パルロ)がふたりを助けます。当然の如くマレシャルとエルザは恋におち、マレシャルは、戦争が終わったらきっと帰って来るという言葉をエルザ残し、国境を目指します。
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 国境を前にして、マレシャルは、これを最後に戦争をやめて欲しいと言い、ローゼンタールは、それは「(大いなる)幻影」だと言います。それだけではなく、ラウフェンシュタイン、ボアルデューを押しつぶしたものも「幻影」だっとのではないかと思います。

 『大いなる幻影』は、反戦映画、ヒューマニズムの映画だと言われています。確かにそうなんでしょうが、マレシャルとローゼンタールの20世紀が、ラウフェンシュタイン、ボアルデューのふたりの貴族に代表される19世紀世界に取って代わる映画だと思います(ローゼンタールは、ユダヤ人の銀行家一族)。二人の捕虜が超えた国境線がその象徴かもしれません。第1次世界対戦の後、ドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、ロシア帝国が崩壊し、ヨーロッパは新しい時代を迎えています。
 もっと皮肉なことは、この映画が公開されて2年後の1939年に第二次世界大戦が始まっています。文字とおり、平和は『大いなる幻影』だったわけです。

【余談】
 監督のジャン・ルノワールは、印象派の大家ルノワールの次男です。『天井桟敷人々』で古着商ジェリコを演じたピエール・ルノワールはお兄さんです。
PDVD_0021.JPG ピエール・ルノワール
 
監督:ジャン・ルノワール
出演:ジャン・ギャバン ピエール・フレネー エリッヒ・フォン・シュトロハイム マルセル・ダリオ ディタ・パルロ

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