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映画 アレクサンドリア(2009西) [日記(2014)]

アレクサンドリア [DVD]
 4~5世紀、エジプトのアレキサンドリアで、キリスト教徒によって虐殺された哲学者ヒュパティアの物語です。

【エジプト、アレキサンドリア】
 冒頭で述べられる解説の復習です。アレクサンドリアといえば、4~5世紀頃にエジプトに存在した(今も存在しますが)都市で、世界一の図書館と、世界七不思議のひとつ大灯台で有名です。エジプトというと、ピラミッド、ファラオを連想しますが、あれは紀元前2~3000年の頃で、エジプト王朝は紀元前4世紀に滅んでギリシアに征服され、プトレマイオス朝となります。アレクサンドリはこのプトレマイオス朝の首都、学問芸術の中心地として発展し、その後ローマ帝国に征服されます。
 従って、この映画の舞台となる5世紀のアレクサンドリアは、政治的にはローマに支配され、文化としてはヘレニズム文化の延長、宗教はエジプト神(あるいはギリシア神)に対する信仰とキリスト教、ユダヤ教が拮抗する状況にあります(たぶん)。映画の中で、キリスト教徒によって、お前たちの神は頭に植木鉢を載っけているのかと揶揄されていますが、これがエジプトの神セラピスです。セラピスを象徴とした宗教とアレクサンドリア図書館が不可分に結びついていることが映画『アレクサンドリア』の始まりです。

 キリスト教徒に自分たちの神を冒涜されたとする図書館派(エジプト神信仰派)は報復に走り、キリスト教徒との深刻な対立を生みます。キリスト教徒でもあるローマ皇帝(テオドシウス1世)は、この報復を不問に付す代わりに図書館等の建物をキリスト教徒の手に渡し、世界一の図書館は滅びます。キリスト教徒は、セラピス等の異教の神像を破壊し、図書館の書物を焼きます。当時70万冊あったとかいう貴重な人類の叡智が、この時失われます。

 当時のローマの国教はキリスト教で、ローマ帝国に迫害されたキリスト教が力をつけてきた時代です。時のローマ皇帝はエジプト神に対する信仰などを異端として迫害し、アレクサンドリアの長官はじめ議員まで洗礼を受けるに至ります。つまり、古いギリシア世界が新しいキリスト世界に飲み込まれてゆこうという時代の話です。

【魔女狩り】
 キリスト教のアレクサンドリア総主教・キュリロスは、アレクサンドリアの政権掌握とユダヤ教徒の排除に乗り出し、ユダヤ教徒を虐殺し、アレクサンドリアをキリスト教一色で塗りつぶそうとします(宗教が市民と政治を取り込むという姿は、イスラム原理主義を連想します)。ユダヤ教徒迫害の刃は、哲学の徒であるヒュパティアにも向けられます。
 キュリロスは、女性は慎ましやかで男の風上に立ってはいけないという聖書の言葉(ホント?)を引用し、哲学者としてアレクサンドリアの尊敬を集めていたヒュパティアを魔女と呼びます。
 ヒロイン・ヒュパティア(レイチェル・ワイズ)は、アレクサンドリアの大図書館の館長であるテオン(マイケル・ロンズデール)の娘で、プラトン、アリストテレスのギリシア哲学の正統を継ぐ哲学者です。当時の哲学というのは、数学や天文学を含む「科学」という意味ですから、キリスト教による科学の弾圧であり、宗教的ファナティズムによる理性の虐殺です。
 キリスト教、弾圧とくれば、キリスト教は弾圧される側というのが通り相場ですが、この映画では、キリスト教は弾圧する側です。

 ヒュパティアは天動説に疑問を持ち、地球が太陽の周りを楕円軌道を描いて回っているという地動説にたどり着きます。これをケプラーの法則とすれば、ケプラーの1200年前に発見したことになりますが、それは映画の主題ではありません。要は、ヒュパティアが科学の徒としてキリスト教の弾圧を受けるという劇的効果を出すための演出です。

 ヒュパティアは、異教徒、魔女として惨殺されます。『アレクサンドリア』で描かれるのは、異端と正統の問題であり、宗教と政治の問題です。
  自己を正統と信ずる組織は自派以外はすべて異端であり、異端とされた組織も自派を正統と考えることで他派を異端とします。『異端と正統』は常に相対的なものですね。正統が権力を握って異端を追い詰めるひとつが『魔女狩り』です。ことは宗教に限った問題ではなく、イデオロギーもまた自己正当(統)化と異端の問題を根深く抱え込んでいます。
 個人の救済を説いたナザレのイエスがローマ軍によって磔刑にされ、イエスの復活を信じる人々が教団を形成し、教団が組織化され聖書という規範を持つに及んで、信仰という個人の心の問題が政治と権力の問題にすり替わります。

【三人の弟子】
 映画は、ヒュパティア(レイチェル・ワイズ)の受難、キリスト原理主義の問題を軸に、ヒュパテイアの三人の弟子の運命が描かれます。ヒュパティアに仕える奴隷ダオス(マックス・ミンゲラ)、後にエジプト長官となるオレステス(オスカー・アイザック)、キュレネ(北アフリカの一地方)の主教となるシュネシオス(ルパート・エヴァンス)の三人です。

 オレステスはキリスト教に改宗し、ローマ帝国のエジプト長官に上り詰めます。アレクサンドリア総主教・キュリロスがヒュパティアを異端とする審問で、オレステはキュリロスに同意せず、政治生命を失います(結末は描かれていませんが)。昔、オレステスはヒュパティアにプロポーズをしています。
 シュネシオスもまた哲学を棄てキュレネの主教となっています。キリスト教の主教ですからキュリロスに従い、ヒュパティスをかばったオレステをキリスト原理主義に引き戻そうとします。
 奴隷のダオスは弟子とは言えませんが、ヒュパティアの講義に同席する間に天体儀を作るほどになります。キリスト教の異教徒弾圧事件の中で、先鋭的なキリスト教修道兵士となります。ダオスはヒュパティアに密かに想いを寄せており、魔女ヒュパティア虐殺に際し、彼女に石礫が投げられる前に密かに縊り殺します。

 でお薦めかというと、ドラマとしては冗長で面白みに欠けます。異端を弾圧し駆逐する原理主義の映画として見ると、これはこれで奥深いものがあります。難点は、ヒュパティアのレイチェル・ワイズが若過ぎること。オレステスが学生から長官になるわけですから、十数年?の時間経過があるはずですが、ヒュパティアは相変わらず若くて美人。ちょっと現実味に欠けます。
 監督は『オープン・ユア・アイズ』『アザーズ』『海を飛ぶ夢』のアレハンドロ・アメナーバル。

監督:アレハンドロ・アメナーバル
出演:レイチェル・ワイズ

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