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百田尚樹 永遠の0 [日記(2014)]

永遠の0 (講談社文庫)
 遅ればせながら、この大ベストセラーを読んでみました。
 26歳の青年と、姉のフリーライターが、「特攻」で死んだ祖父の実像を追うという小説です。うちの娘など、この映画を見て泣いたと言ってましたが、日本全体が右傾化と言われる昨今まことに時宜を得た小説だと思います。

 青年と姉が、祖父・宮部久蔵を知っているという太平洋戦争の生き残りを訪ねインタヴューを重ねることで、宮部の実像が少しずつ姿を表すというスタイルを取っています。
 
 最初に訪ねた元海軍少尉は、宮部を、腕利きの零戦搭乗員であるにも関わらず生き残ることばかりを考えていた臆病者だと非難します。勇敢で愛国者であるはずの特攻隊員が、なぜ臆病者だったのか?一敗地にまみれた主人公・宮部久蔵が、如何に復活するのか?、生き残ることに必死だった宮部は何故特攻機で出撃したのか?、というミステリーで読者を引っ張っていきます。

 インタヴューを重ねる毎に、宮部久蔵の実像が明らかになります。そこにいるのは、特攻志願をたったひとり拒否し、妻と未だ見ぬ娘(青年と姉の母親)のために生き残って日本へ帰ると決意した戦闘機乗りの姿です。戦闘機は3機を1小隊として飛ぶそうですが、自分の生き残りとともに僚機を無事基地に返すことに心を砕き、教官となっては海軍の要求する速成教育を拒否し、生き残り得る操縦技術をもった特攻要員を養成する、(小説ですから)一本筋の通った「臆病者」です。
 宮部久蔵は、真珠湾奇襲からミッドウェイ、ガナルカナル島からレイテ、沖縄へと転戦し、最後は鹿屋基地から零戦に乗って飛び立ちます。ヒネリの効いたラストで読者の涙を誘い、泣かせるツボを心得た小説です。

 百田尚樹は、都知事選で田母神俊雄を応援したり、改憲論をとなえ南京虐殺は無かったと発言するなど小説以外のパフォーマンスから、『永遠の0』も戦争賛美の小説だと批判されています。映画は見ていませんが、小説を読む限り、戦争賛美は何処にもありません。むしろ、特攻批判、太平洋戦争指導者(参謀本部)批判、戦争批判は随所に見られます。
 『きけ わだつみのこえ』をはじめ、戦没者の遺書は、数多く活字となっています。そうした遺書の多くは、死ぬ理由を家族や妻子、恋人に求め、「お国のため」という「お国」は、自分が育った故郷の山河に置き換えられています。『永遠の0』も、このヴァリエーションのひとつだと思われます。特攻賛美、戦争賛美という意見は、愛する人を守るために命を捨てるというロマンティシズムに対する過剰反応ではないかと思うのですが。

 安部首相は、今日の日本の繁栄は、先の大戦で亡くなった300万英霊の犠牲のうえにある、として靖国神社に参拝しました。一国の首相が戦没者を慰霊するという当たり前の行為が、歴史認識の問題としてやり玉にあがることが、今の日本が置かれている状況の難しさです。この靖国参拝批判と、『永遠の0』戦争賛美批判というのは、同じ構図ではなかろうかと思います。理由は、日本が負けたからです。

 小説の中に、特攻隊員をテロリストだと非難する新聞記者が登場します。この新聞記者は、ストーリーから浮いた存在なのですが、戦争賛美と批判されることを予測した作家なりの伏線かも知れません。ラスト近くで、この新聞記者は元特攻隊員によって徹底的に叩かれます。太平洋戦争を聖戦と持ち上げ、戦後は民主主義に鞍替えしたジャーナリズムが日本を滅ぼし、戦後の日本をダメにしたんだというわけです。その急先鋒がお前の新聞社だ! →どの新聞社だかわかりますね(笑。

 浅田次郎の『終わらざる夏』を連想しましたが、なかなかおもしろい小説です。2日で読んでしまいました。元ヤクザの特攻隊員が、参謀本部の「戦力逐次投入」を素人の博打だと批判しますが、この小説の一番の卓見かも知れません。

タグ:読書
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