深井晃子 ファッションから名画を読む [日記(2015)]
絵画には、制作当時の様々な階層の人々の生活が描きこまれています。本書でも紹介されていますが、ボッシュやブリューゲルの絵には、当時の庶民が生き生きと描かれ見飽きません。本書は、絵画に描かれたファッションから当時の風俗や社会を明らかにしようという、美術史と云うより風俗史の解説書です。「ファッションから名画を読む」ではなく、「名画からファッションを読む」と云うタイトルを付けたほうがふさわしいかも知れません。本書を読む面白さもそこにあります。
黒い女性服はもともと喪服と庶民階級の服だった。19世紀後半に、ファッショナブルな色として女性服に登場することになるが、その理由には、科学の発達とこの時代特有の社会的な背景がある。
だそうです。
19世紀に、雨傘、日傘がファッションとして一般化すると、画家たちはこれをキャンバスに取り入れます。ルノワール「雨傘」の、左の若い女性は、簡素な黒の衣装をまとい、傘もささず手に大きなバスケットを持っています。バスケットの中には客に届ける帽子が入っており、女性は使い走りを仕事とする「トロタン」。仕事の途中に雨に降られたのでしょう。その左の男は、曰くありげな表情で、「お嬢さん入りませんか」と若い女性に傘をさし掛けます。
右には、傘をさし帽子で着飾った黒いショールの子供つれの女性が描かれています。上流階級とは言わないまでも、「トロタン」とは階層の異なる女性を配し、働く貧しい女性に親切ごかしに言い寄る男性、絵の上部を占める傘、傘、傘。19世紀の雨の日のパリのひとコマです。
厳格さとエレガンスを併せ持っていた黒の二重性こそ、19世紀社会が持っていた社会的な矛盾、富裕階級と労働者階級・・・新たに生み出された差異社会ににつじつまを合わせながら、その矛盾を暴きだしているといえよう。
ということになります。
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