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映画 バベットの晩餐会(1987デンマーク) [日記(2015)]

バベットの晩餐会 HDニューマスター  [DVD]
 原題はBabette's Feast。美食は人に幸せをもたらす、という映画です。原作があるそうで、デンマークでは紙幣に肖像画が描かれているというカレン・ブリクセン『愛と哀しみの果て』のようです。

 デンマークのユトランド半島の海辺の村に暮らす、牧師の娘マーチーネとフィリパ姉妹の物語です。姉妹は、恋もあったわけですが、父親の死後村の信者の世話しながら老境に至ります。この老姉妹に美食は何をもたらすか、というのが主題です。

 恋と云うほどのこともないのですが、マーチーネには海軍士官ローレンスが、フィリパには仏人の歌手パパンが配されます。ローレンスもパパンも姉妹に受け入れられず村を去ります。姉妹は、恋よりも信仰と日常の静謐を選択したのでしょう。パパンはバベットを姉妹の元に送り込む役目を、ローレンスは、バベットの作る晩餐を食べる役目を担います。
 
 1871年、バベットはパリで夫と子供を殺され自身の命も危険にさらされたため、パパンによって姉妹に託されます。1871年のパリの戦乱というと、有名な「パリ・コミューン」です。バベットは、市民の蜂起に加わって追われ、デンマークの寒村に身を隠したと云うわけです。
 バベット(ステファーヌ・オードラン)は、無給の家政婦として姉妹と暮らすようになり、19世紀のデンマークの貧しい村の日常が淡々と描かれます。

 バペットはパリの友人を通じて宝くじを購入しています。14年が経ち、この宝くじが当たったことで物語は美食へと動き出します。折から、姉妹の父親の誕生100周年が催されることとなり、バペットは宝くじで当たった金を元にその晩餐にフルコースの食事を準備したいと申し出ます。
 仏人のバペットの作るフルコースですから、フランス料理です。休暇を取って買い出しに出かけ、ウズラや海ガメやワインを仕入れて村に戻ります。戒律を守って質素に暮らしてきた姉妹にウズラや海ガメですから、牧師を偲ぶ晩餐会が「サバト(魔女の宴会)」になるのでないかと恐れます。晩餐会の11人の出席者は、料理に付いての話は決してしないと申し合わせます。料理を楽しむ晩餐会ではないからです。
 お客がひとり増えて11人から12人になったよという会話があります。後で気がついたのですが、晩餐会・12人(12使徒)と云うと「最後の晩餐」です。最後の晩餐に供されたのはパンと葡萄酒、バペットの晩餐会はフルコースのフランス料理。どうもこの辺りが映画の要のようです。

 ひとり増えたお客とは、今はデンマークの将軍となった海軍士官ローレンスです。アレいてたの?という出現です。
 さて、バペットによる晩餐会が始まります。高級なワインが出され、海ガメのスープから始まるフルコースです。ここでローレンスが重要な役割を演じます。11人の客は牧師を知る村の老人たちで、料理を話題にすることは禁じられています。ローレンスにはそのことが伝えられず、彼だけが現役の将軍としてこのフルコースを楽しみワインを賞味することが出来る立場です。
 11人は黙々と食べ、ローレンスひとりが、このワインは何とかの何年ものだ、この料理は有名なレストランにも劣らないと舌鼓を打って料理を食べます。それに引きずられるように11人の老人達も料理とワインを楽しみます。もうひとり、いやふたり料理を楽しむ人たちがいます。将軍を送ってきた御者と晩餐会のボーイを手伝った村の少年が、厨房で料理を振る舞われます。御者は、実に美味そうに料理を食べます。このふたりは、美食に慣れたローレンスとは異なり、自分の舌で料理を評価できる人間です。

 当然に、食が人にもたらすものが描かれます。信心深い人々とはいえ、騙した騙された、悪口を言った言わないなどそれなりの諍いがあります。傑作なのは不倫。老人のカップルは、誘ったのはアンタだ、それを受け入れたのはお前だ、罪を犯した私達を神は救うのかと思い悩むわけです。そしてバペットの晩餐会の後、諍った人々は和解し、不倫のカップルは愛を確かめ、美食は人々に幸せをもたらします。
 ラストで、バペットはパリの高級レストラン「カフェ・アングレ」の料理長だったことが明かされます。
カフェ・アングレは1802年創業。1913年に廃業するまで、スタンダールやバルザック、フローベール、大デュマをはじめ、錚々たる作家たちが通った屈指の名店である。
だそうです。
 
PDVD_000.jpg 最後の晩餐.jpg
 
 『バベットの晩餐会』がキリストの「最後の晩餐」を下敷きにしているとすれば、ひとつだけ気にかかることがあります。ユダです。12人のうち異端はユダであり、晩餐会の12人の客の異端はローレンスです。ローレンスはユダ?。ローレンスは、牧師を偲ぶ宗教的晩餐を人間的な食を楽しむ「晩餐」に変えてしまったわけです。ということでは、12人の招待客のうち唯一の裏切り者、しかも歓迎される裏切り者だったわけです。ユダはイエスの指示で裏切り者の汚名を背負ったという説もありますから、なかなか意味深。

 これといって事件が起きるわけではありません、美男美女が登場するわけでもありませんが(むしろ老人ばかり)、1時間半、間引き込まれるように見てしまいます。お薦めです。

監督:ガブリエル・アクセル
出演:ステファーヌ・オードラン ビルギッテ・フェダースピール ボディル・キュア

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