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映画 まあだだよ(1993日) [日記(2016)]

まあだだよ デジタル・リマスター版 [DVD]
 内田百閒の随筆を下敷きに、百閒先生と教え子たちの交流を描いた黒澤明最後の作品です。「まあだだよ」とは、「未だ生きてるよ」という意味で、百閒先生の誕生日を祝う「摩阿陀会」で、教え子たちが「もういいかい」と聞くと、先生は「まあだだよ」と答えることが恒例となってたそうです。
 黒澤明は、『第一阿房列車』や『ノラや』などを読んでこの魅力的な百閒先生を、映画の主人公に据えてみたいと思ったのでしょう。『第一阿房列車』は、ただ列車に乗ることだけを目的とした元祖「乗り鉄」「呑み鉄」エッセイ。『ノラや』は、愛猫ノラの失踪を嘆く百数日間?の「ノラや、ノラや」の悲嘆の日々を綴った愛猫記。どちらも大の大人が胸を張って書くような事柄ではありませんが、百間先生の手に掛かると、如何にも人生の大事であるかの如くに読まされてしまいます。

 その百閒先生と、先生の「乗り鉄」を支える教え子の国鉄職員ヒマラヤ山系氏、先生のために「ノラ」を探し回る教え子たち。教え子といっても、学生ではありません。れっきとした中年の大人が猫一匹のために右往左往するわけですから、師弟の絆が如何に深かったかということでしょう。
 『まあだだよ』は、その絆を描いた映画ですが、所ジョージが教え子代表のような顔で出演しますから、コメディになってしまいます。「ノラや、ノラや」と悲嘆にくれる松村達雄は、センセイもきっとこんな風だったんだろうと思わせる入魂の演技です。
まあだだよ2.jpg まあだだよ.jpg
ノラを抱く百閒先生                 ノラがいなくなって嘆く百閒先生
 1950年代60年代の黒澤全盛期に比べると、さすが83歳の黒澤の衰えは隠せません。ストーリーは、前半の大学のドイツ語教師を辞めて文筆業一本に転じる百閒先生、後半のノラの失踪を嘆く百閒先生、その先生と教え子たちの「もういいかい、まあだだよ」という交流です。これを面白いかと見るかどうかは、視点によります。内田百閒という視点で見れば面白いですが、黒澤明の視点で見れば面白くも何とも無い、老巨匠の自己満足です。黒澤は、百閒先生に自分自身を重ねたかった、あやかりたかったのでしょうが、成功したとは言えません。
 百閒ファンには必見の、黒澤ファンには無用の一本かも知れません。私はその中間ですから、これはこれで面白かったです。

監督:黒澤明
出演:松村達雄 香川京子 井川比佐志 所ジョージ

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