佐藤 剛 黄昏のビギン の物語 (2014小学館新書) [日記(2018)]
佐藤 剛『上を向いて歩こう』が面白かったので、次いで同著者の「奇跡のジャパニーズ・スタンダードはいかにして生まれたか」と副題の付いた『黄昏のビギンの物語』です。「黄昏のビギン」を知ったのは”ちあきなおみ”の歌が流れる何かのTVCMです(検索かけるとネスカフェーのCMのようです)。2005年、NHKの『歌伝説・ちあきなおみの世界』を見て”ちあきなおみ”のCDをボツボツ集めるという、まさにこの本が書く通りの「黄昏のビギン」の道をたどりました。
音で聴く音楽を文字で書くというノンフィクションは難しいです。『上を向いて...』は、中村八大、永六輔、坂本九の履歴をたどり、「上を向いて...」が生まれた経緯、「SUKIYAKI」となって全米ヒットチャート一位になった理由を探るなかで、くしくも昭和という時代を描いた優れたノンフィクションになっていることでした。
音で聴く音楽を文字で書くというノンフィクションは難しいです。『上を向いて...』は、中村八大、永六輔、坂本九の履歴をたどり、「上を向いて...」が生まれた経緯、「SUKIYAKI」となって全米ヒットチャート一位になった理由を探るなかで、くしくも昭和という時代を描いた優れたノンフィクションになっていることでした。
音楽を文字に書く難しさは、例えば中村八大、永六輔、水原弘の「黒い花びら」について次のように書いています。
1940年代にアメリカの黒人たちから中から生まれた、魂の叫びとしてのブルースがもとになって、都市部ではびーとが強調されてリズム&ブルースに進化した。そこに白人のカントリーとの出会い頭の衝突が起こって、双方が融合したところにロックンロールが誕生した。
「黒い花びら」にはそれらのすべて、ブルース、リズム&ブルース、ロックンロールの要素が含まれていた。
と言われても、そんなものかという程度で、聴く人によって受け取り方はそれぞれ。
「黄昏のビギン」は、水原弘の二枚目「黒い落ち葉」のB面に収録されます。30年後の1991年、ちあきなおみのカバーアルバムに収録されまで忘れられ存在でした。京成電鉄、ネッスル、トヨタのCMソングとしてTVで流れ、その後さだまさし、中森明菜など20人近い歌手に歌われ、スタンダーナンバーとなります。
では「黄昏のビギン」にはどんな秘密が隠されているのか?。この歌も作詞は永六輔ということになっていますが、著者とのインタビュー、ラジオ番組などで、実はあの歌、八大さんがつくったんです、詞も曲も、と永が発言したことから、著者の歌のルーツ探しが始まります。
1940年代にアメリカの黒人たちから中から生まれた、魂の叫びとしてのブルースがもとになって、都市部ではびーとが強調されてリズム&ブルースに進化した。そこに白人のカントリーとの出会い頭の衝突が起こって、双方が融合したところにロックンロールが誕生した。
「黒い花びら」にはそれらのすべて、ブルース、リズム&ブルース、ロックンロールの要素が含まれていた。
と言われても、そんなものかという程度で、聴く人によって受け取り方はそれぞれ。
「黄昏のビギン」は、水原弘の二枚目「黒い落ち葉」のB面に収録されます。30年後の1991年、ちあきなおみのカバーアルバムに収録されまで忘れられ存在でした。京成電鉄、ネッスル、トヨタのCMソングとしてTVで流れ、その後さだまさし、中森明菜など20人近い歌手に歌われ、スタンダーナンバーとなります。
では「黄昏のビギン」にはどんな秘密が隠されているのか?。この歌も作詞は永六輔ということになっていますが、著者とのインタビュー、ラジオ番組などで、実はあの歌、八大さんがつくったんです、詞も曲も、と永が発言したことから、著者の歌のルーツ探しが始まります。
中村八大と永六輔が初めてコンビを組んだのは、1959年東宝のロカビリー映画『青春を賭けろ』『檻の中の野郎ども』の挿入歌を作る仕事からです。ふたりは、この二本のために一晩で10曲作り東宝に持ち込みます。二本とも当時人気のロカビリー歌手が出演するB級にもならない映画だそうで、ヒットすることもなく忘れ去られ、中村八大は思い入れのあるこの曲を「黒い落ち葉」のB面に収録したということが明らかになります。
著者は、この映画を発掘し、「黄昏のビギン」と同じメロディーのタイトルの無い曲を見つけ出します。
たそがれ静かに 夕闇せまり
あなたのえくぼ 風にほほえむ
あまく冷たい 銀色の雨
あなたの唇 雨に濡れてる (原曲)
雨に濡れてた たそがれの街
あなたと逢った 初めての夜
ふたりの肩に 銀色の雨
あなたの唇 濡れていたっけ (黄昏のビギン)
「たそがれ」「銀色の雨」「あなた」「雨に濡れて」と、主要な言葉が共通して使われ、雨の上がった黄昏れ時の恋人たちの逢瀬を描いていることでは、このふたつの歌詞は同じものだと思われます。『上を向いて...』で著者が指摘した「詞のエッセンス」を大事にする六八コンビの曲作りを、「黒い落ち葉」のB面を作るにあたって永六輔抜きで中村八大がひとりでやったわけです。中村八大にとっては作詞は永六輔、永六輔にとってはあの歌、八大さんがつくったんです、ということになります。
これは「黄昏のビギン」の秘密のひとつであり、歌い継がれてスタンダードナンバーとなった秘密の解明ではありません。結局著者は、いい歌を作りたいという作詞家、作曲家と、いい歌を歌いたいという歌手が出会った時にスタンダードナンバーが生まれるという、ある意味、ありふれた結論に落ち着きます。
本書は、中村八大の履歴、六八コンビの歌作りなどは『上を向いて歩こう』のほぼ再掲で、「上を向いて歩こう」の楽譜を発掘して歌の秘密を探り、坂本九の歌唱を分析する「切れ」が本書には見当たりません。
見当たりませんが”ちあきなおみ”と「黄昏のビギン」のファンとしては、なかなか面白い一冊でした。
たそがれ静かに 夕闇せまり
あなたのえくぼ 風にほほえむ
あまく冷たい 銀色の雨
あなたの唇 雨に濡れてる (原曲)
雨に濡れてた たそがれの街
あなたと逢った 初めての夜
ふたりの肩に 銀色の雨
あなたの唇 濡れていたっけ (黄昏のビギン)
「たそがれ」「銀色の雨」「あなた」「雨に濡れて」と、主要な言葉が共通して使われ、雨の上がった黄昏れ時の恋人たちの逢瀬を描いていることでは、このふたつの歌詞は同じものだと思われます。『上を向いて...』で著者が指摘した「詞のエッセンス」を大事にする六八コンビの曲作りを、「黒い落ち葉」のB面を作るにあたって永六輔抜きで中村八大がひとりでやったわけです。中村八大にとっては作詞は永六輔、永六輔にとってはあの歌、八大さんがつくったんです、ということになります。
これは「黄昏のビギン」の秘密のひとつであり、歌い継がれてスタンダードナンバーとなった秘密の解明ではありません。結局著者は、いい歌を作りたいという作詞家、作曲家と、いい歌を歌いたいという歌手が出会った時にスタンダードナンバーが生まれるという、ある意味、ありふれた結論に落ち着きます。
本書は、中村八大の履歴、六八コンビの歌作りなどは『上を向いて歩こう』のほぼ再掲で、「上を向いて歩こう」の楽譜を発掘して歌の秘密を探り、坂本九の歌唱を分析する「切れ」が本書には見当たりません。
見当たりませんが”ちあきなおみ”と「黄昏のビギン」のファンとしては、なかなか面白い一冊でした。
タグ:読書
2018-02-13 08:52
nice!(3)
コメント(2)
戦後昭和のポップスは味がありますね。服部良一や浜田庫之助の曲なども同じく明るさの中に哀愁を感じます。このあたりの曲のテンポが一番日本人に合っている気がします。
by Lee (2018-02-13 21:23)
ですね、”いずみたく”も。
by べっちゃん (2018-02-14 09:39)