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司馬遼太郎 胡蝶の夢(3) [日記(2018)]

胡蝶の夢〈第3巻〉 (新潮文庫) 胡蝶の夢〈4〉 (新潮文庫) 続きです。
 松本良順、伊之助(司馬凌海)、関寛斎を主人公とした『胡蝶の夢』は、蘭方医学が江戸時代の身分制を突き崩して行く物語です。良順は将軍を診る奥御医師ですが出自は町医、伊之助は佐渡の質屋の伜、寛斎は農民。蘭学、医学を学ぶことで身分制度的の垣根を越えます。作者は「江戸身分制社会というものを一個のおきものとして作者地震が肉眼で見たい」ためにこの長い物語を書き始めたということです。

 江戸の身分制は、日常生活のなかでは「分際」という言葉で人々を縛ります。作者によると、
 分際とは、封建制のなかで、身分ごとに(こまく分ければクラスの数が千も二千もあるがずである)互いに住みわゆくための倫理的心構えもしくはふるまいのことで、封建制を構成するための重要な倫理的要素だ
といいます。「分際をわきまえない」と共同体から制裁を受け分際を教え込まれ、人は身分制の殻に閉じこもることになります。伊之助が周囲から受けた迫害?や「いじめ」「意地悪」はこの分際をわきまえなかったことによります。

 江戸末期になると、身分と分際を超える道が開かれます。武芸と学問です。技術を身につけることで、身分の垣根を超えることが可能と可能となります。多摩の農民の息子が直参旗本「格」となり、周防の村医が講武所教授を経て兵部大輔となるのは、いずれも武芸と学問によるものです。学問の習得と社会階層の上昇がワンセットになった明治維新の功利主義は、後の学歴偏重と無縁ではなさそうです。

 ポンペが長崎で始めた無差別診療は、江戸の身分制の一角を切り崩しました。「医者は病者と共にある」とうポンペの教えを受けた良順は、被差別民の棟梁・弾左衛門を治療し、差別の撤廃を老中に働きかけます。将軍の侍医で医学所頭取、海陸軍医総裁が弾左衛門を治療するなど一昔前であれば考えられないことであり、蘭学、医学という客観的事実を重視する思考方法は、身分、分際という観念的ものを吹き飛ばしたということです。

す。作者流に言うなら
 (ポンペやカッティンディーケが教えた)蘭学ー医学、工学、兵学、航海学ーといった技術書の叙述に本質的に溶けこんでいるオランダの市民社会のにおいから、それを学ぶものはまぬがれることはできなかった。

 教育、学問が明治維新どう準備したかという興味で、『胡蝶の夢』を読み始めました。蘭学、蘭方が身分制を破壊してゆくあたりは圧巻です。

タグ:読書
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Lee

最近福沢諭吉の「福翁自伝」を読んで抱腹絶倒、世渡り上手に唸りました。この人のオープンマインドも蘭学の賜物かも?いずれブログに書きたいと思います。
by Lee (2018-11-18 00:22) 

べっちゃん

『福翁自伝』は未読。青空文庫にあるのでそのうちに読んでみます。
by べっちゃん (2018-11-18 08:03) 

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