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映画 アナイアレイション -全滅領域-(2018米英) [日記 (2020)]

アナイアレイション-全滅領域- [AmazonDVDコレクション]  原題、Annihilation、消滅。『エクス・マキナ』が面白かったので、引き続きアレックス・ガーランド監督作品です。「(スポアンサーが)より幅広い観客に受けるような作りに変更するよう求めてきた。しかし、ガーランドとスコット・ルーディンはその要求を拒絶した」(wikipedia)だということで、確かに一般受けする映画ではありませんが、『エクス・マキナ』より分かりやすいです。ストーリーはwikipediaにゆずり、ここでは映画の「個人的な」謎解きをします。当たっているかどうかは?。

がん細胞
 『アナイアレイション』を解く鍵は、冒頭にあります。ヒロインの生物学者レナ(ナタリー・ポートマン)が細胞分裂の動画を学生に見せるシーンがあり、これがガン細胞であることが明かされます。つまり、映画全編が、「人体に巣食うガン」を「人類という種を襲うガン」に敷衍し、このガン化した領域を「シマー」あるいは「全滅領域」と呼び、がん細胞(シマー)と人間の戦いが描かれます。

 がん細胞とは何かというと、

人間の体は細胞からできています。がんは、普通の細胞から発生した異常な細胞のかたまりです。
正常な細胞は、体や周囲の状態に応じて、ふえたり、ふえることをやめたりします。例えば皮膚の細胞は、けがをすれば増殖して傷口をふさぎますが、傷が治れば増殖を停止します。一方、がん細胞は、体からの命令を無視してふえ続けます。
がん細胞は、正常な細胞の遺伝子に2個から10個程度の傷がつくことにより、発生します。・・・傷の種類として、DNAの暗号に異常が生じる突然変異と、暗号自体は変わらなくても使われ方が変わってしまう、エピジェネティック変異とがあることがわかってきています。(国立がん研究センター)

 冒頭で、宇宙から何かが飛来し灯台に衝突します。この灯台を中心に「全滅領域」シマーが広がりますから、「エイリアン映画」のヴァリエーションです。通常のエイリアンは実体を持ったモンスターですが、『アナイアレイション』にエイリアンは登場しません。全滅領域が地球上に発生したガンであり、ガンが正常細胞の突然変異であるなら、飛来したエイリアンは地球の生態系(DNA)に突然変異をもたらす何かです。レナたちが遭遇するのも、地球上の動植物、人間が突然変異を起こしたモンスターたちです。同じ株に咲く異種の花々、歯が同心円に生えたワニ、体内で腸が蛇状になった人間、異様な熊などもすべ突然変異です。

がん細胞キラー
 全滅領域の調査に多くの研究者、兵士が向かいますが、いずれも未帰還。レナの夫ケイン(オスカー・アイザック)は絶滅領域に向かった調査隊の唯一人の生き残りで、多臓器不全を起こして研究所に収容されます。レナは、夫がこの危険な任務に就いたのは自分の不倫が原因であると自責の念を持っています。レナがヴェントレス博士(ジェニファー・ジェイソン・リー)をリーダーとする女性5人の調査隊に加わるのは、これが動機。ヴェントレスがガンに罹っているのも象徴的で、娘を白血病で失った女性、自殺未遂の女性などそれぞれが実生活で問題を抱えた女性たちです。これが何を意味するか不明ですが、彼女たちが、困難を克服しようという意思を持った女性たちだとれば、人体の持つ「免疫」の象徴かもしれません。いずれにしろ、5人はガン細胞キラーです。

 人間の身体は、細胞が日々死滅し再生することによって成り立っています。胃の細胞が死滅すると、胃は自分の細胞をコピーすることで失った細胞を補填します。コピーに失敗すると胃がんが発します、すなわち遺伝子の突然変異によるミスコピーです。このコピーが映画で重要な意味を持っています。
 終盤、灯台に到達したシーンです。レナは灯台にあるエイリアンの「核」に入り、夫ケインが自撮したビデオで彼が手榴弾で自殺したことを知ります。では、レナが会った全滅領域の調査から戻ったケインとは何者なのか?。コピーです。レナはこの核に入りヴェントレスと再会し、彼女は、全滅領域は世界中に広がり世界は破滅すると話し、炎を吐き出して核と一体化します。レナもまた、細胞が悪しきコピー=がん細胞を生み出すように自分のコピーを生み出してしまいます。灯台から脱出しようとするレナをコピーが邪魔し、レナは手榴弾(白リン弾)を使ってコピーを焼き殺し、灯台は炎に包まれて崩れ落ち全滅領域は消滅します。地球はガン化から救われたことになります。

 多くのメタファーがストーリーに埋め込まれています。ケインの多臓器不全、これも末期ガンを連想します。レナが出会う2匹のアルビノ(遺伝子異常)の鹿はシンクロするかのように逃げ去りますが、これは灯台でレナが自分のコピーとシンクロするシーンの伏線です。廃棄された村で熊のモンスターに襲われますが、熊の口からは食い殺された隊員の助けを求める声が聞こえます。また人の形をした植物と出会いますが、隊員のひとりは、分析すればヒトのHOX遺伝子(体の構造を決定する遺伝子)が発見される筈だと言い、全滅領域では、あらゆるものがDNAさえ屈折すると推理し、自身が植物化しつつあることを知った彼女は森に消えます。レナは自分の血液の中で何者か(シマー)が細胞分裂を起こしていることを(顕微鏡で)知ります。

 全滅領域が消滅しケインも回復します。めでたしめでたしかというと、ケインはコピーであり、レナもまたコピーなのかも知れません。灯台で焼け死んだのは、本物だったのかコピーだったのか?(右利きだったレナは左利きに変わっている)。DNAを屈折させるシマーは、ケインとレナの中で生き続けていることになります。続編があるのでしょうか?。
 Amazonなどの評価は今ひとつですが、着想の妙に一票!、の映画です。

監督:アレックス・ガーランド
出演:ナタリー・ポートマン ジェニファー・ジェイソン・リー オスカー・アイザック

* ザ・ビーチ(2000年) - 原作
* 28日後... (2002年) - 脚本
* 28週後... (2007年) - 製作総指揮
* わたしを離さないで(2010年) - 脚本・製作総指揮
* エクス・マキナ(2015年) - 監督・脚本
* アナイアレイション -全滅領域(2018年) - 監督・脚本・・・このページ

タグ:映画
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