SSブログ

川村裕子 現代語訳 和泉式部日記 ① (2007角川文庫) [日記 (2022)]

和泉式部日記 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)相関図.jpg
 『王朝日記の魅力』の続きみたいなものです。
 『和泉式部日記』は、冷泉天皇の第四皇子・敦道親王との恋の顛末を日記の形で書いたものです。『王朝日記の魅力』は、和歌の解説が中心で、歌以外の部分がありません。歌以外に和泉式部は何を書いていたのか興味があります、馴れ初めだとか、デートだとかw。

花橘
 和泉式部の恋人・為尊親王は1002年26歳の若さで亡くなります。喪の明けた翌1003年のこと、為尊親王の弟・敦道親王の従者が式部に橘の花を届けに来ます。橘の花は、「五月待つ 花橘の香をかげば 昔の人の 袖の香ぞする(古今和歌集)」を踏まえたメッセージで、和歌の代替。当時の恋は和歌の交換から始まります。敦道親王は橘の花に託して兄の恋人・和泉式部にモーションを掛けたわけです。親王は兄の愛人・式部を知っていて、美人の誉れ高い?式部に横恋慕していたのかも知れません。式部が恋多き女性であることも知っていた筈。兄が亡くなったので、ここぞとばかり言い寄ろうと花橘で歌の代わりとしたのです。
  和泉式部は橘に掛けたメッセージを読み取り、「薫る香に よそふるよりは ホトトギス 聞かばや同じ 声やしたると」と返します。橘の香りより郭公の声で兄親王を偲びますという意味。

 「反応があった!」と敦道親王も歌を返します「おなじ枝に 鳴きつつをりし 郭公 声は変わらぬ ものと知らずや」。私は兄親王とは兄弟なので声は似ていますよ、亡くなった兄の代わりに私と付き合いませんか、という誘いです。ホイホイ応じてはハシタナイので、ここは一旦間を取ります。すると敦道親王から追いかけるように「うち出ででも ありにしものを なかなかに 苦しきまでも 嘆く今日かな」。告白なんかしなければよかった、告白した為にかえって苦しい想いをしているよ。
式部も歌を返します、「今日のま(間)の 心にかへて 思いやれ ながめつつのみ 過ぐす心を」。あなたは恋の告白したから苦しいと仰るが、私は為尊親王を失ってからずっと苦しいのですよ、と。
 この時代、気の利いた文章と趣のある歌を、趣味のよい和紙に達筆で書き、季節の花の枝に結んで恋文を贈ったそうです(中村真一郎『色好みの構造』)。故為尊親王にかこつけた恋の心理戦です。

暮にはいかが
また御文あり。ことばなどすこしこまやかにて、
(親王)「語らはば なぐさむことも ありやせん 言ふかひなくは 思はざらなん
あはれなる御物語 聞こえさせに、暮にはいかが」とのたまはせたれば、
(式部)「なぐさむと 聞けば語らま ほしけれど 身の憂きことぞ 言ふかひもなき

親王からは頻繁に手紙が来ますが、式部はたまにしか返事を書かず(ジラして)、「つれづれもなぐさむ心地」で過ごしていますが、まんざらではないわけでしょう。ついに親王から誘いの手紙が来ます、「今日の夕暮れに訪ねて行っていい?」と。式部は、慰めて頂くのは嬉しいけれど、私の悲しみは晴れそうもありません、と返しますが、これ事実上のOKの返事です。

 親王が訪れます。式部は妻戸を開き縁側に座布団(円座)を出して招き入れます。いきなり部屋に上げるようなことはしません。男に顔を見せるのはハシタナイことだったようで、面会も御簾越し。

世の人の言へばにやあらむ、なべての御さまにはあらず、なまめかし。これも心づかひせられて、ものなど聞こゆるほどに、月さし出でぬ。

世間で言うように、なかなかなまめかし=イケメンじゃない。打ち解けて話す間に月が出てきます、設定は抜群!。

(親王)「いと明かし。古めかしう奥まりたる身なれば、かかるところに居ならはぬを 。いとはしたなき心地するに、そのおはするところに据ゑ給へ。よも、さきざき見給ふらん人のやうにはあらじ」とのたまへば、

(式部)「あやし。今宵のみこそ聞こえさすると思ひはべれ。さきざきはいつかは」など、はかなきことに聞こえなすほどに、夜もやうやう更けぬ。

縁側というのは居心地がどうもね。あなたのいる御簾の中に入れて下さい、あなたが今まで付き合ってきた男性のように無礼な振る舞いはしませんよ。親王は式部が多くの男と付き合っていることを知っています。式部は牽制します。今宵はしんみりと亡き兄親王を偲ぼうということでしたね、私の付き合った過去の男性?…、などと話している間に夜が更けて来ます。

(親王)「はかもなき夢をだに見で明かしてはなにをかのちのよ語りにせん」とのたまへば、
(式部) 「よとともにいるとは袖を思ふ身ものどかに夢を見る宵ぞなき
まいて」と聞こゆ。
(親王)「かろがろしき御歩きすべき身にてもあらず。なさけなきやうにはおぼすとも、まことにものおそろしきまでこそおぼゆれ」とて、やをらすべり入り給ひぬ

このまま縁側で世を明かすんですか、「分かっているでしょう」と親王は御簾の中に入り、「分かっている」式部は招き入れ、恋は成就。この時親王は23歳で式部は27歳くらい。23歳の青年が恋に長けた年増の罠にはまったようなもの?。面白いです。ふたりの恋はどうなるのか →続きです。

タグ:読書
nice!(8) 
共通テーマ:

nice! 8