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映画 ドライブ・マイ・カー(2021日) [日記 (2022)]

ドライブ・マイ・カー インターナショナル版 [Blu-ray]
 2021年の数々の映画賞を受賞、ニューヨーク映画批評家協会賞は日本初、と話題となった映画です。PrimeVideoにあったので遅ればせながら観てみました。179分と長いですが、一言で言えば、妻を喪った中年男の喪失と回復の物語です。

音(おと)
 俳優で演出家の家福(西島秀俊)と妻・音(霧島れいか)の夫婦の物語です。音は、Sexからインスピレーションを得て作品を書くという脚本家。Sexの後、前世がヤツメウナギであった少女が空き巣を働く物語を家福に語り出します。なんとも奇妙なオープニングですが、原作が村上春樹の短編集『女のいない男たち』なので、ハルキワールドと考えればそんなもの?。
 家福は音の浮気の現場に出くわし、音は脚本のドラマに出演する俳優と次々に関係を持っていることを知ります。それでも音への愛情は変わらず、家福は音を失うことを恐れ音の不倫を見てみぬ振りをする生活を続けます。音はクモ膜下出血で倒れ家福の腕の中で亡くなります。浮気な愛妻を亡くした「女のいない男」これが『ドライブ・マイ・カー』の主題です。ある意味、亡くなった音が陰のヒロインとも言えます。

ワーニャ伯父さん
 家福は、広島国際演劇祭に招かれ、チェーホフの『ワーニャ伯父さん』を演出することになります。出演者の国籍は、日本のほか韓国、台湾、フィリピン、インドネシアと多彩。面白いのは、それぞれが自国語でセリフを喋ることです。極めつけは、韓国手話で演技するユナ(パク・ユリム)。舞台では日本語、韓国手話、北京語が飛び交うことになるのですが、上演時には大型スクリーンに日本語字幕が入るから大丈夫なようです。
 本読み、立稽古が始まり、俳優のセリフが家福の行動に重なり、家福が『ワーニャ伯父さん』にオーバーラップする仕組みです。本編と劇中劇がリンクする手法はよくありますが、なかなか効果的。
 『ワーニャ伯父さん』は、wikiによると「希望のある未来や、希望の断絶による未来の喪失を結末とする」演劇だそうです。

高槻
 俳優・高槻(岡田将生)がオーディションに応募し、家副は高槻を主役のワーニャに抜擢します。家福は、高槻が音の不倫の相手の一人と知って採用したわけです。音が紡ぐヤツメウナギなどの「物語」を共有する精神的な繋があり、家福は嫉妬を克服していたわけです。ところが、高槻は家福の知らない「ヤツメウナギ」の続編を語り出します。ここに至って、家福が信じていた音との絆がそれこそ音をたてて崩れます。おまけに、高槻は、他人の心をそっくり覗き込むことはできないが自分の心ならしっかり覗き込むことができる、そこに見えた自分と向き合えと云う説教まで折り混ぜて...。

みさき
 家福は東京から広島へ真っ赤なサーブでやって来ます。稽古と上演の2ヶ月間、主催者から車の運転を禁じられ専属ドライバーみさき(三浦透子)が付きます。家福と高槻の「対決」を運転しながら聞いていたのが、運転手のみさきです。
 みさきは子供の頃に母親に虐待され、事故に会った母親を見殺しにした過去があります。みさきが愛したのは、二重人格の母親に宿るもうひとりの人格だったのです。みさきは母親とともにたったひとりの友であった人格を殺したわけです。家福同様、みさきもまた愛する者を失った喪失感に苛まれています。家福もまた、わざと帰宅を送らせたために倒れた妻の発見が遅れ、自分が妻を殺したのではないかと罪の意識を持っています。

 家福とみさきは、広島国際演劇祭で演じられる『ワーニャ伯父さん』のワーニャとソーニャに転化されます。家福が演じるワーニャにユナのソーニャが韓国手話で語りかけます。それを観客席でじっと見ているのがみさき。

でも、仕方がないわ、生きていかなければ!ね、ワーニャ伯父さん、生きていきましょうよ。長い、はてしないその日その日を、いつ明けるとも知れない夜また夜を、じっと生き通していきましょうね。運命がわたしたちにくだす試みを、辛抱づよく、じっとこらえて行きましょうね。今のうちも、やがて年をとってからも、片時も休まずに、人のために働きましょうね。そして、やがてその時が来たら、素直に死んで行きましょうね。...(神西清訳)

 家福とみさきは、「未来の喪失を結末」として迎えるのか?。

 思弁的な映画ですが、オススメ。チェーホフとのコラボレーションが、海外での高い評価を受けた要因でしょう。

監督:濱口竜介
出演:西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、岡田将生

タグ:映画
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