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立花 隆「政治と情念~権力・カネ・女」 [日記(2005)]

政治と情念

政治と情念

  • 作者: 立花 隆
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2005/08/03
  • メディア: 文庫

 単行本『「田中真紀子」研究』を改題したものが本書らしい。有名な「田中角栄の研究」の流れで、基調は本質的に変わっていない。文藝春秋の記者との対談の体裁をとっており、内容が「ゴシップ」だから大変読みやすい。

*** 引用 ***
 ・・・政治の本質は利害の調整にあります。・・・政治力というのは、言葉を換えていえば、妥協しがたい立場に立つ対立者間に、妥協を作り出す能力(合意形成能力)ということです。それに必要なのは妥協点を見つけ出す能力(いわゆる落としどころを見抜く能力)であり、当事者双方に、それをのませる能力です。
 のませる能力として重要なのは、一方ではそれをのまないと、より大きな損失をこうむることになると思わせるおどしの能力であり、もう一方では、のめば別の筋から別の利益が期待できる思わせる(またその通り実現してやる)損失補填能力です。そういう能力において角栄は特にすぐれていました。
*** 引用おわり ***

 米貿易赤字の元凶である日米繊維交渉を例に、田中角栄の問題解決手法をこのように斬る。外交問題を国内問題とすり替え、日本の繊維業者に多額の保証(ばらまき)をすることにより解決を図るのである。短絡的にいえば、この「妥協」と「脅し」と「補填=カネ」こそが田中角栄と自民党保守派=日本の戦後政治である。

たぶん、「政治」とはそういうものだと思わせるエピソードが詰まっている。

個人的評価は★★★★★。

★★★★★=絶対のおすすめ。
★★★★☆=おすすめ。
★★★☆☆=読んで損は無い。
★★☆☆☆=好みに合わない。
★☆☆☆☆=(私にとっては)理解不能。


村上 龍 希望の国エクソダス [日記(2005)]

希望の国のエクソダス

希望の国のエクソダス

  • 作者: 村上 龍
  • 出版社/メーカー: 文芸春秋
  • 発売日: 2000/07
  • メディア: 単行本

村上 龍 希望の国エクソダス(文春文庫) 
 2001年パキスタンで日本の中学生が地雷に被弾したことから物語は始まる。現地ゲリラに日本の中学生がコマンドとして参加していたのである。ゲリラはマスコミに「ナマムギ・ナマゴメ・ナマタマゴ」と語ることによって自分が日本人であること、イジメがないことでゲリラなった経緯をほのめかす。報道されるやいなや、国内の中学生による圧倒的な「ナマムギ」支持がおこり、「不登校」中学生達による「ナマムギ通信」サイトが立ち上がる。「ナマムギ通信」はネット上で増殖し数十万の中学生を組織する一大勢力へと成長する。この辺りのストーリー展開は鮮やかである。
 物語は、ネットで組織された60万人の中学生集団による、経済的に行き詰まった日本救済の物語に発展してゆくのだが、中盤以降の展開は荒削りを免れない。説明・解説に走りすぎである。確かに、国際通貨やネットビジネスは小説になり難い題材だろうが、作者の解説ではなく、登場人物の体験と行動を通して語ってほしい。
 「希望の国エクソダス」のボンちゃん、ナカムラクンなど不登校中学生は、「半島を出よ」で登場するホームレスの少年シノハラやタテノと兄弟であり、彼らによる行き詰まった日本国の閉塞打破の物語もよく似ている。人物造形も物語のリアリティも「半島を出よ」の方が圧倒的に迫力がある。北朝鮮軍の日本侵攻という描きやすいモチーフではあるが。
エンターテイメントとして個人的評価は★★★☆☆、但し古本なら。

★★★★★=絶対のおすすめ。
★★★★☆=おすすめ。
★★★☆☆=読んで損は無い。
★★☆☆☆=好みに合わない。
★☆☆☆☆=(私にとっては)理解不能。