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ETV特集「パンデミックが変える世界~海外の知性が語る展望~」 [日記 (2020)]

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 今回のコロナウィルスのパンデミックについて、イアン・ブレマー(米、国際政治学者)、ユヴァル・ノア・ハラリ(イスラエル、歴史家)、ジャック・アタリ(仏、経済学者)の3人の著名な学者にインタビューした番組です。インタビューは、アメリカ、ヨーロッパでパンデミックが起こり、日本が緊急事態宣言を出した、4月1日、2日、7日に行われ、11日に放送されました。まさにベストタイミングの企画です。

「Gゼロ」後の世界―主導国なき時代の勝者はだれか

イアン・ブレマー(4月2日)
 「Gゼロ世界」の提唱者であるブレマーは、9.11でブッシュ支持率が92%とアメリカは団結し、敵対するロシアもアメリカを支持した。2008年の金融危機でも米EUは結束してG20が生まれ、中国もアメリカのリーダーシップを支持し世界恐慌を回避した。2020年のコロナ危機でアメリカ国民は団結していない、トランプの支持率は46%に過ぎない。今回、トランプは事前通告無しにEUからの入国を禁止し、G7、G20でも協調はみられない。「アメリカファースト」を奉じるアメリカはリーダーシップを発揮せず世界各国の協調は見られない。
 アメリカの経済支援はGDPの10%だがインドは1%。日本、アメリカ、ヨーロッパは国内経済の停滞に対応する資力があるが、新興国、途上国は国民への必要な経済支援はできない。ロックダウンが長期化すれば新興国、途上国は、サプライチェーン、製造業、サービス業に打撃を受け社会不安が起こる。社会不安は過激派の温床でもある。
 各国が自国の利益を第一に行動し、グローバリゼーションの分裂が加速する。米中のテクノロジーの分野で始まった分裂が、サプライチェーン、製造業、サービス業に広がり、この先人類は、気候変動といった地球的規模の危機に対して以前のようなグローバルな対応はできない。
 ヨーロッパに医療支援を行っている中国の存在感が増す。国際的リーダーシップという点でアメリカの存在感はゼロ、トランプは何もしていない。コロナ以後の世界秩序は、国家間の格差、国内では貧富の格差が広がる。

ホモ・デウス 上: テクノロジーとサピエンスの未来

ユヴァル・ノア・ハラリ(4月7日)
 この緊急事態において、自由市場に頼ることができないのは誰の目にも明らか。経済システムと雇用市場を作り変える変えるいい機会である。選択肢は数多くあり、それは政治の仕事であり、政治を監視する市民の仕事でもある。
 コロナウィルスを口実にハンガリーでは政権が独裁的とも言える権力を握り、イスラエルでも議員をウィルス感染から護るという名目で議会を閉鎖しようとした。民主主義が崩壊するのは緊急事態の時である。位置情報システムなどのハイテク技術を使た国民の監視が進行し、私権の制限が起こりつつある。
 アメリカは2.2兆ドルの交付を決めたが、貰えるのは誰で貰えないのは誰かを監視する必要がある。緊急時だからこそ民主主義が機能しなければならず、チェック&バランスが維持されなければならない。ポピュリズムや陰謀論を排し、グローバルな連帯、民主的で責任ある政治を選び科学を信じれば、コロナ危機は、後になって振り返れば、人類にとって悪くない時期だったと思えるはず。

21世紀の歴史――未来の人類から見た世界

ジャック・アタリ(4月1日)
 コロナ危機をコントロールできないとしたら、市場と民主主義という2つのメカニズムは崩壊する。最悪のシナリオは、世界的な恐慌、失業、インフレ、ポピュリストによる政府の誕生、長期不況による暗黒の時代が到来する。新しいテクノロジーを使った国民の管理と独裁主義が生まれる可能性もある。
 パンデミックという深刻な危機に直面した今こそ、「他者のために生きる」という人間の本質に立ち返らねばならない。協力は競争よりも価値があり 人類は一つであることを理解すべきだ。「利他主義」という理想への転換こそがサバイバルの鍵である。利他主義は合理的利己主義であり、自分が感染の脅威にさらされないためには、他人の感染を確実に防ぐ必要があり、利他的あることはひいては自分の利益になる。
 経済を全く新しい方向に設定し直す必要がある。長期的な視野に立ち、生きるために本当に必要な医療機器、病院、住宅、水、良質な食料などの生産を行う「ポジティブな経済」に向かうチャンスである。利他的な経済や社会、ポジティブな社会を目指すべきである。
 私たち全員が次の世代の利益を大切にする必要がある。誰もが、親として消費者として労働者として一市民として次世代の利益となるよう行動をとることができれば、それが希望となる。

 イアン・ブレマーが指導者なき(Gゼロ)世界の混迷に、ユヴァル・ノア・ハラリが民主主義の危機に、警鐘を鳴らし、ジャック・アタリが処方箋を提示するという構成です。3人が3人とも、ポピュリズムを排し国際的連帯を訴えるという主張を展開しています。当たり前といえば当たり前の話ですが、世界的な危機である今、当たり前の主張が意味を持ってくるということでしょう。コロナ危機を脱した時、はたして人類は、ユヴァル・ノア・ハラリの言う「以前よりずっと強く団結した種」となれるのかどうか。

 4/11に放送された番組をNHKプラスの「見逃し再生」で見ましたが、NHKプラスはけっこう便利です。

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