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サラ・ウォーターズ エアーズ家の没落 (上) (2010創元推理文庫) [日記 (2020)]

エアーズ家の没落 上 (創元推理文庫) エアーズ家の没落下 (創元推理文庫)
 原題:The Little Stranger。
ハンドレッズ領主館
 「戦争が終わって未だ2年しか経っていない」と言いますから1947年、舞台はイギリス中部ウォリックシャーの田舎町、1730年代に建てられたハンドレッズ領主館。館の主エアーズ未亡人、若い当主ロデリック、婚期を逸したその姉キャロラインの「没落」が医師ファラデーによって語られます。米国人の手に渡った貴族館と英国の没落を、執事の眼を通して描いた『日の名残り』と設定は似ています。日本にも太宰の『斜陽』がありますから、時代のうねりと旧体制の没落は洋の東西を問わず小説のテーマとなるのでしょう。もっとも、『エアーズ家の没落』は『半身』『荊の城』のサラ・ウォーターズですから、味付けはサスペン、ミステリーかつホラー。

  ハンドレッズ館には、当主を亡くした未亡人、大戦で醜い火傷を負い跛となった長男、嫁き遅れの婚期を逸した長女の三人。館にいた使用人は去り、今ではメイド一人に通いの女中と庭師がいるだけ。エアーズ家は、先祖伝来の美術品や家具を売り、土地を切り売りしてようやく屋敷を維持するという「斜陽」を絵に描いたような生活。世間から見放され静かに朽ちてゆく館の物語です。

医師ファラディー(語り手)
 ファラディーはエアーズ家のメイドが病気となり往診をしたことで一家と親しくなります。ファラデーは、母親がエアーズ家のメイドをしていたことで華やかりし頃のハンドレッズ領主館を知っている人物。冒頭、幼いファラデーがエアーズ家の園遊会に紛れ込み、一家の優雅な生活とその館の壮大さに息を呑み、館のレリーフの一部を剽窃した過去が語られます。
 ファラデーは、母親がエアーズ家のメイドだったことからも分かるように”平民”で、医師となったことで名家エアーズ家と対等に交際できる様になった、謂わば”成り上がり”。

 私は自分の借金を背負った状態からスタートし、開業して十五年近く、小さな田舎の同じ診療所に居続け、食べていくのがやっとという有様だった。自分が不満の多い男だと考えたことはんかった。忙しくて、ゆっくり不満をかこつ時間などなかった。それでも、ときどき自分の人生の先がすべて見えた気がして、不出来な木の実のようにに苦く、中身がなく、つまらないものにしか思えず、気持ちが暗く落ちこんで、とことん惨めになる時がある。
 医大にいたころに恋焦がれた娘を思い出す。バーミントンの良家の娘だった彼女は、両親が私を結婚相手にふさわしいと認めてくれず、最後には私を捨てて別の男を選んだ。失意に突き落とされたことで、私は恋愛に背を向けるようになり、その後、何人かと交際したものの、心ここにあらずという体たらくだった。

この何気ない独白に小説の秘密が隠されています。また、ファラデーと彼の従兄弟、キャロライン三人が出会ったシーンです。

キャロラインが、(従兄弟に)子供たちはどうしていると訊くと、彼はきついウォリックシャー訛りで答えたが、かつて私も同じ方言を喋っていたとは信じられなかった。

ファラディーは、訛を捨て父母の階層を捨て医者となったことで、キャロラインの階層に近づいたことになります。大戦を挟むエアーズケ家の没落、ファラデーの階層上昇こそが『エアーズ家の没落』の核です?。

 メイドのベティが病気となりファラデーが往診したことで、と彼エアーズ家の関係が生まれ、ロデリックの脚の治療を買って出たことで関係は深まります。ファラデーは論文作成のためという名目で治療を無償で行いますが、「食べてゆくのがやっと」という状況で、この治療はエアーズ家に近づく口実だと考えられます。何故ファラデーはエアーズ家に入り込みたかったのか?。カソリン節約のために発電機を止めるエアーズ家から多額の治療費は期待できず、後の展開から考えると、目的はキャロラインかとも思うのですが、ファラデーはこの勝ち気で”嫁き遅れ”のキャロラインにそれほど魅力を感じている様子はありません。『エアーズ家の没落』がサスペンスとするなら、これが最大の謎。

続きます

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映画 暗殺の森(1970伊仏独) [日記 (2020)]

暗殺の森 [DVD]  原題”Il conformista”、適合者、同調者。邦題の「暗殺の森」の原題が何故「適合者、同調者」なのか?と考えると、この分かりにくい映画の裏が見えてきます。ファシストのマルチェロ(ジャン=ルイ・トランティニャン)が反ファシズムの指導者を暗殺する物語で、暗殺に向かう車中で、暗殺に至る経緯をマルチェロが回想するという構成をとっています。

ファシズム
 マルチェロは、フランスに亡命した反ファシズムの指導者クアドリ教授に近づき、イタリア国内の反ファシズム勢力を炙り出すという計画をたて、これがファシスタ党に承認されます。
 マルチェロはイタリア貴族の末裔。父親は精神病院に入り母親は運転手を愛人にモルヒネに溺れ、一家の伝統とマルチェロの矜持は破綻しています。おまけに、子供の頃に同性愛の洗礼を受け相手を殺したという過去まで持っています。ファシスタ党の幹部は、人が党に協力する動機は恐怖、金であり思想的な協力者は稀だとした上で、君は違うとマルチェロに言います。マルチェロのファシズムは思想への共鳴ではなく、こうしたコンプレックスを包む「鎧」と考えられます。
 思想としてファシズムを選択したマルチェロに対置されるのが、マルチェロの護衛兼監視者のマンガニエーロ。マンガニエーロはファシズムの思想や理念ましてコンプレックスなどとは無縁で、ファシスタ党の職業的エージェントとして登場します。マルチェロはクアドリ教授に教えを受けた知識人であることを加えると、ファシズムを支えるマンガニエーロ、マルチェロという構造が透けて見えます。

エロス
 マルチェロは中産階級の娘ジュリア(ステファニア・サンドレッリ)と結婚し、新婚旅行で訪れたパリでクアドリ教授に近付きます。この時、マルチェロの役目は、党の指示によりスパイから暗殺者に変わり、教授の妻アンナ(ドミニク・サンダ)の登場によって、映画も「男と女」の物語に変わります。暗殺者が暗殺対象の妻に性的欲望掻き立てられ(とてもラブストーリーとは言えない)、ファシズム、反ファシズムという政治の物語が、男女の性愛の物語に変質します。政治と対極にある性愛にすり替わるわけですから、この二つは表裏関係にあると言っているようです。
 アンナとジュリア、マルチェロと教授が踊るダンスホールのシーンは圧巻。アンナとジュリアの女同士のダンスは同性愛を連想させ、マルチェロが踊る男女に飲み込まれるシーンは「政治など何ほどのもか?」と言っているようです。マルチェロは少年時代にホモセクシュアルの洗礼を受け、結婚したジュリアは6年にわたって老人と性交渉を持った花嫁、ファシストは反ファシズムの教授の妻と関係を結び、ジュリアとアンナもレズビアンのイメージを暗示させます。『暗殺の森』は、政治的暗殺の殻を被ったエロスの物語です。
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 ジュリア               アンナ

適合者、同調者
 マルチェロがクアドリ教授を殺せばストーリーして完結すわけですが、教授とアンナはファシスト党の別の暗殺者に殺され、マルチェロは暗殺者にもなれずアンナを救うこともできず、傍観者として終わります。マンガニエーロは何もしないマルチェロを、「どんな仕事もするが卑怯者の相手はごめんだ 卑怯者とホモとユダヤ人は同類だ まとめて銃殺してやりたい」と評しますが、これはほぼナチズム。本物?のファシズムからすると、マルチェロはファシストではなく単なる傍観者、映画の原題である時代の適合者、同調者に過ぎないということです。
 ムッソリーニが失脚してファシズムは終焉を迎え、同調者に過ぎなかったマルチェロは転向します。転向の引き金が、殺した筈の同性愛の相手に再会したことも象徴的です。娼婦?の臥せるホテルのベッドから始まった映画は、娼館と思われる場所で惑うマルチェロの姿で終わります。ファシズムで鎧えなくなったマルチェロは、次に何を選択したのか?...。
 『暗殺の森』は、イタリアのファシズムを裏から描いた映画ですが、政治の季節の1970年に、29歳のベルナルド・ベルトルッチがファシズムを描いたことに意味があったのでしょう。「イデオロギーは思想的鎧、衣裳に過ぎない」という映画で、『暗殺の森』が評価される理由もそこにあると思われます。

監督:ベルナルド・ベルトルッチ
出演:ジャン=ルイ・トランティニャン ステファニア・サンドレッリ ドミニク・サンダ

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島 泰三 ヒト、犬に会う(2019講談社) [日記 (2020)]

ヒト、犬に会う 言葉と論理の始原へ (講談社選書メチエ)  本書では、人とヒト、犬とイヌが使い分けられています。ホモ・サピエンスという人類ヒトは、イヌに出会ってはじめて「人」になり同時にイヌも「犬」になったという、犬好きにとってはまさに福音の書です。ウチの駄犬のルーツをたどる「時間旅行」です。中身は、

 第1章 犬への進化
 第2章 イヌ、ヒトに会う
 第3章 犬の力(そんなサスペンス小説があった!)
 第4章 「ことば」はどのように生まれたか
 第5章 こんなことが信じられるか?
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 ウチの駄犬
 分類上イヌは、食肉目ーイヌ亜目ーイヌ下目ーイヌ科ーイヌ属ーオオカミーイヌ で、15000年前にオオカミが家畜化されてイエイヌになったらしいです。面白いのは家畜化された野生動物は羊、山羊(紀元前11000年頃~紀元前9000年頃)、豚(紀元前9000年頃)、牛(紀元前8300年頃)で、イヌが一番古い。羊は羊毛、山羊は乳、豚、牛は食肉や乳用途ですが、イヌにはそうした有用性がありません。狩りの補助、外敵からの防御(警報)という有用性もありますが、人間の食物や糞(死体も)をあさるオオカミが共同体に居着き、人間に飼いならされたとするなら、イヌは15000年来の人間の友ということになります。我が駄犬もオオカミの末裔だ、確かに若い頃は遠吠えをしていた!。本書によると、6万年前、インド半島の海岸線を東へ向かうヒトと、ヒマラヤ山脈とチベット高原の外縁を回り込んだオオカが、ミエイヤワディ河畔で出会います(物語です)。ここからイヌとヒトの旅が始まり、

(犬と人間の)関係は、狩猟や防衛や介護などはもちろん、それ以上の問題、人間の心の問題のすべてに及んでいる。・・・犬は人間的な心の特性誕生のすべてに関係している。
「『仲間概念』そのものが犬と人間の関係から生まれた」
「現代の人間は、最初の犬と同時に誕生した」
「イヌのおかげでヒトは人間になった」
「私たちだけでここ(現在の高み)まで来たのではない、犬がいたからだ」
「言葉は神とともにあった」というキリスト教文明の前提が正しいとすれば、犬こそは神なのだ。「真理は犬」なのだ。

ということになります。犬が神、真理こそが犬!という一見トンデモ本ですが、中身は、イヌの分類学から始まり(著者は動物学者)、アフリカを出たホモ・サピエンス、気候変動からジュリアン・ジェインズの「二分心」と多彩です。

 人の生産形態は狩猟採集から農耕牧畜に変わります。狩猟に犬が貢献したことは想像できますが、農耕牧畜にも犬が深く関わっていると言います。文明は人が農耕牧畜を始めたことから始まったとすれば、私たちだけでここ(現在の高み)まで来たのではない、犬がいたからだという主張もあながちトンデモ本の世界ではなさそう。農業生産物を鳥やネズミから護ったのはネコのような気もしますが、牧羊犬を持ち出すまでもなく、山羊や羊を放牧する牧畜に犬の果たした役割は大きいでしょう。

農耕牧畜に言語精神がかかわるのは、人同士で必要な情報をやりとりすることが主要な原因ではない。人がヒッジ・ヤギの大群を扱う上では、人以上に頼りになる犬との協同作業を効率化し、生産をあげることができるようにするためには、適切な言語的精神をふたつの種(犬と人)の間で共有し、洗練させる必要があった。人は、まるで自分だけで「農耕牧畜文明」を始めたかのように語るが、その創成は犬なしにはありえなかった。

 犬とコミュニケーションを図るために身振り手振り表情、音声の「人の言語的精神構造」に磨きがかかったというのはホントかなぁと思うですが...。

つまり、「農耕牧畜を始めることを可能にした言語的精神構造とは、犬である」。
より正確には「南西アジアのヒツジ・ヤギの(重複した)群棲地帯に、共生関係にある犬と人間の言語的精神構造が加わった結果、そこに農耕・牧畜が生み出されたのだ」と言うことができる。

???...愛犬家は納得!。島センセイの難解な文化人類学的考察は半分も理解できませんが、駄犬との日々の生活から「イヌのおかげでヒトは人間になった」という説は十分実感できます。何しろ、私とオクサンが一触触発に陥りそうな時、間には必ず駄犬がいるわけですから...。健康のために粗食に耐え、一日でも長く駄犬が生きながえるよう祈るばかりです(肉が食いたい!・・・駄犬)。
 「おわりに」でNHKスペシャルの番組『ベイリーとゆいちゃん』が触れられています。わたしも観ましたが、こども医療センターのセラピー犬ベイリーとゆいちゃんのふれあいは、1万5000年に及ぶ犬と人の歴史を何よりも強く物語っています。

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図書館再開 [日記 (2020)]

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 図書館が再開されたので予約した本を受け取りに行ってきました。電話して予約を取って出向くというもの。図書館には入れず入り口でビニールシート越しに受け渡し。受け取るだけですから、差し支えはないわけですが。取り敢えずはコロナ以前に一歩近づきました。

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映画 ドリームハウス(2011米) [日記 (2020)]

ドリームハウス スペシャル・プライス [DVD]  引っ越した夢の家”ドリームハウス”は、実は悪夢の家だった、というホラーサスペンスです。
 ウィル(ダニエル・クレイグ)は本を書くため勤めを辞め、妻・リビー(レイチェル・ワイズ)とふたりの娘とともに郊外の家に移り住みます。引っ越し早々、娘のひとりは窓の外に不審人物を認め、ウィルは、地下室に潜り込んだ近所の子供から、この家で起こった事件、妻と幼い二人の娘が夫に殺された事件の話を聞かされます。ウィル一家は殺人事件のあった家に引っ越したことになるます。その事実は、隣家のアン(ナオミ・ワッツ)によっても確認されます。

 家族を殺した前の住人ピーター・ウォードは、証拠不十分と犯行時の心神喪失によって無罪となり、施設に収容されたことが判明。ウィルは、娘が見た不審な人物はこのピーターではないかと考え施設を訪ねます。ピーターの部屋でリビーとふたりの娘の写った写真を見付け確信を深めますが、ピーターは既に施設を退所。ウィルは、消えたピーターの行方を追って、犯行後に彼が収容されていた精神病患者の収容施設を訪ねます。

 ...と、殺人犯の影に脅えるウィル一家のサスペンスですが、それではありきたり。アッと驚くどんでん返しが用意されます。少しだけヒント(笑。

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 以下ネタバレです。

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トマトの支柱立てました [日記 (2020)]

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 4/20に植えたトマトが大きくなったので、支柱立てました。2~3本仕立てにして多収穫を狙います、できるかな?。

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映画 哭声/コクソン(2016韓) [日記 (2020)]

コクソン哭声 [DVD]  冒頭、ルカ伝24章37-39節が表示されます。

人々は恐れおののき、霊を見ていると思った
そこでイエスは言った。なぜ心に疑いを持つのか
私の手足を見よ。まさに私だ。触れてみよ
このとおり肉も骨もある

 磔刑の後復活したイエスが信者の前に現れ、信者が「恐れおののく」シーンでのイエスの言葉だそうです。この言葉は、ラストで死んだ(筈の)日本人がキリスト教の助教に向かって言いますから、この映画の主題らしい。2時間30分(長い!)の映画を観てヨーワカラン、では勿体ないので少し頭の体操をしてみます。

日本人
 田舎の村・谷城(コクソン)で一家惨殺事件が相次いで起き、地元の警察官(クァク・ドウォン)が捜査を始めます。毒キノコを成分とする健康食品を食べた人間が、精神錯乱の果てに家族を殺した犯行と断定されますが、最近山に住み着いた日本人(國村隼)が原因ではないかと噂になります。日本人がフンドシ一枚で鹿を殺して生肉を食べていたなどの目撃情報があり、この何のために住み着いたのか、何をしているか不明の奇怪な日本人が憶測を呼びま。谷城という共同体に日本人という異物が混入し、共同体に歪みが生じ、共同体の矛先は異物に向かうというわけです。欧米人や中国人ではなく「日本人」という辺りが韓国でしょうか。当然この日本人に固有名詞は与えられません、「ウェノム」です。

巫堂(ムーダン)
 警察は日本人の住む山中の廃屋を訪れ、怪しげな祭壇や、壁一面に貼られた事件の被害者の写真を発見します。警察は、日本人が村人を写真に撮り呪い殺し、持ち物を奪ってそれに呪いをかける、と思い込みます。廃屋で警察官の娘ヒョジンの靴が片方見つかります。日本人は村人を呪詛している→村で起こった事件の原因は日本人だ!、ということになります。やがてヒョジンに悪霊が乗り移り、祈祷師(巫堂、ムーダン)は日本人の悪霊に取り憑かれた少女に「悪魔祓い」の儀式が行われます。『エクソシスト』ではキリスト教の神父が悪魔払いをしますが、この映画のエクソシストは祈祷師。儀式は結界を張り鐘太鼓を打ち鳴らして鶏や山羊を殺す凄まじいもの。これと呼応するかのように日本人も祓いの儀式に及びますから、さながら「悪魔祓い」の日韓対決。ただ、日本人の祭壇には殺された韓国人の写真が祀ってありますから、この死人を蘇らせる儀式だったような?。
 悪魔祓いの後も一事件は終息せず、警察と村人は日本人を殺しに山に向かい、追い詰めて殺してしまいます。この時日本人が蘇らせたと思われるゾンビに襲われますが、何故ゾンビなのか?。分かったような分からない展開です。

イエス
 祈祷師は、悪霊は日本人ではなく白い服の女であることに気づき、日本人は祈祷師であり村人を悪霊から守っていたことに気づきます。一方、キリスト教の助教は日本人の正体を探りに洞窟に入り、そこで死から甦った日本人と出会います。お前は何者か?と問う助教に、日本人は冒頭のルカ伝の言葉で答えます。日本人の掌には、イエスが磔刑になった時の聖痕がありますから、日本人はイエスということになります。これでは「親日称賛禁止法」(未成立)、「国民情緒法」違反(笑。これはマズイので抜け穴を用意しました。日本人は、私はアンタが想像する通りの存在だと言うと、日本人は眼が赤く燃え角の生えた悪魔へと変身します。助教は聖痕を見ても日本人をイエスとは信じず悪魔と考え、その想像通り悪魔に変身します。これを信仰云々というのは無理があります。日本人は、助教にカメラを向けシャッターを切りますが、何でカメラなんだ?。
 同じ頃、悪霊に支配された少女ヒョジンにより警察官一家殺害の惨劇が繰り広げられます。ジョングの家に到着した祈祷師もまた惨劇の現場をカメラに収めます。

 『哭声/コクソン』は韓国で700万人近い観客動員数をあげ、多くの(といっても韓国の)賞に輝いています。個人的に理解不能なこの映画も、韓国人には「分かる」んでしょうね。『哭声/コクソン』は、厄災の村・谷城に現れたイエスを連想される日本人の、迫害と処刑、復活の物語がベースとなっています。日本人=イエスに対置される存在が、朝鮮の土俗(巫堂、ムーダン、悪霊=白い服の女性)です。韓国のシャーマニズムは、キリスト教の形をとって社会に深く根を下ろしているという映画ではないかと思います(コロナウィルスの集団感染が発生したキリスト教系新興宗教団体を連想します)。
 よく分からないのが、日本人の住む廃屋にあった写真(何故か祈祷師も同様の写真を持っている)、イエス(日本人)が助教をカメラで撮り、祈祷師もジョングの家の惨劇の現場をカメラに収める行為です。被写体は、復活を信じないキリスト教の助教であり、毒キノコが生んだシャーマニズムの惨劇。カメラこそが真実を撮す(暴く)、というナ・ホンジン(監督)の自負なのでしょうか?。

 とでも想像しないと、2時間30分は取り戻せません。

監督:ナ・ホンジン
出演:クァク・ドウォン ファン・ジョンミン 國村隼 チョン・ウヒ

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図書館再開 [日記 (2020)]

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 「大阪モデル」の達成で図書館の休館が解除されました。電話で来館予約して予約図書を受け取りにゆくというレベルです。やっと読みたかった本が読めそう。それにしても、通天閣と太陽の塔のライトアップは斬新でしたね、大阪らしいといえば大阪らしい。
 5/17に電話したところ、図書の受け渡しは5/20以降とのこと、マスク着用のこと、だそうです。この時期図書館で本を借りるのも一苦労。

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イチゴ飴 [日記 (2020)]

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イチゴ飴.jpg← レシピ
 1個貰って食べてみましたが、デザートしてイケます。凍らせてアイスキャンデーにしました、こちらの方が美味しいです。

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映画 暗殺(2015韓) [日記 (2020)]

暗殺 [DVD]  日本統治下の京城(ソウル)を舞台に、朝鮮独立派や殺し屋が暗躍するアクション映画です。韓国映画で「日韓併合」と「朝鮮独立運動」がどう描かれているのか興味があったので観ました。
 韓国の俳優に馴染みがないうえ、字幕の人名がカタカナため、誰が誰か分かり辛い。例えば、映画に登場する大韓民国臨時政府の代表キム・グは金九のことです。ムン・ジェイン大統領は文在寅の方がピンときます、キム・ジョンウンはやはり金大恩でしょう。
 なかなか凝った設定です。1910年の日韓併合と韓国近代史を知っていると楽しめます。

1911年 京城
 京城(ソウル)で、朝鮮総督府総督の寺内正毅暗殺未遂事件が起こります。親日実業家カン・イングクはこの事件の暗殺者を匿った妻を殺害し、この時カンの双子の子供が朝鮮と満州に離別します。姉がカンの娘・満子、妹は韓国独立軍の狙撃手オンギュ(チョン・ジヒョン)に成長し、オンギュは父であるカンの暗殺を企てます。
 寺内の暗殺を企てたヨム・ソンチク(イ・ジョンジェ)は警察(=日本軍)に捕まり、脱獄して満州の独立運動組織に加わります。これは偽装で、ヨムは日本軍に寝返ってスパイとして独立運動組織に戻り、二重スパイとして杭州の「大韓民国臨時政府」の警務部に潜り込みます。
 大韓民国臨時政府というと大層なものですが、朝鮮独立運動の一派が中国に亡命して「臨時政府」の看板を揚げただけのもの。韓国の教科書にも載り、文在寅もこの「聖地」を「参拝」しています。帝国主義に飲み込まれ、日本の敗戦で独立した韓国にとっては、この臨時政府は「独立を自ら勝ち取った」というの国家的証(あかし)です。

1933年 杭州、上海、京城
 杭州の「臨時政府」は、朝鮮人を虐殺した朝鮮駐屯軍司令官・川口と親日実業家のカン・イングクの暗殺を企てます。選ばれたのは韓国独立軍の狙撃手オギュン爆弾男のファン・ドクサム、速射砲のチュ・サンオクの3人。この3人を招集するのが二重スパイのヨム・ソンチク。この特異なキャラクターのヨムがストーリーを引っ張ってゆきます。
 二重スパイのヨムは、オギュン等3人の暗殺を阻止するため殺し屋を雇います。ヨムは、臨時政府の警務隊長として川口とカン・イングクの暗殺を企て、一方で警察の密偵としてこの暗殺を阻止するという、マッチポンプです。この殺し屋が通称”ハワイ・ピストル”と”爺や”のふたり一方で、ヨムを二重スパイと疑う臨時政府も刺客を差し向け、さらにオギュンの双子の姉まで登場します。もつれた糸を解きほぐし如何に決着を着けるのか?。

 この映画の背景は、日本帝国主義に支配された朝鮮です。登場人物達が日本の支配をどう捉えているか、興味深いです。
親日実業家カン・イングクの妻は親日派の夫を批判します、
日本は戦争もせずにこの国を奪った あなたのような人が差し出したのよ

二重スパイのヨムは、
韓国独立党、韓国革命党、朝鮮革命党、義烈団、30以上の団体の派閥争いが独立運動か?
カネの入り口が違うからバラバラになる、みんな泥棒だ、どいつもこいつも泥棒だ

殺し屋ハワイ・ピストルは、川口と親日実業家のンを殺せば朝鮮の独立が実現するのか?と韓国独立軍のオギュンに問います。オギュンは、
二人を殺せば独立できるか?、わからない、戦い続けていることを(国民に)伝えないと

速射砲のチュ・サンオクと刺客のハワイ・ピストルの会話では、
最近の朝鮮のブタが美味い理由を知っているか?
タマを落とすから、タマを切ると穏やかになり肉も軟らかくなる、だがブタもタマを守りたいよな
日本人は朝鮮人のタマを落としているみたいだ

 いずれも、昨今の日韓関係のファナティックな言動とは一線を画したセリフで、少々驚かされます。そしてストーリーはというと、「日帝」などというスローガンや暗殺の陰惨さが吹っ飛ぶ程に痛快なアクションの連続。
 チョゴリを着た女性や韓国風の帽子を被った男性が行き交う、日本統治下の京城の町並みを背景に、爆弾が炸裂し銃弾が飛び交います。この映像は新鮮です。

暗殺3jpg.jpg 暗殺4jpg.jpg
1949年 ソウル
 「反民族行為 特別調査委員会」の法廷。韓国警察の高官となったヨム・ソンチクは、独立軍の3人を日本軍に売ったことにより民族を迫害した罪で起訴されます。傍聴席からは靴が投げられ「売国奴」の声が上がります。ヨムは衣服を脱ぎ、滔々とまくし立てます、
私の身体には、日本人に受けた銃弾が6つもある。1911年、寺内総督暗殺未遂事件ではここ、1922年上海、1927年ハバロフスク、1932年出雲号爆破未遂、心臓の横の傷は1933年
私が同朋人を売った?、3人を選んだのは私だ。あの若き青年たちの気持ちが分かるか?、分かるはずがない。私がどんな気持ちで送り出したか。

 判決は、証拠不十分で棄却、ヨムは無罪となります。観客は、ヨムの転向と裏切りを知っていますから、「国民情緒法」によって猟奇的な彼女(オンギュ)によるが裁きが下ります。
  観客動員1270万人、韓国映画歴代TOP10入りの大ヒット作だそうです。 

監督:チェ・ドンフン
出演:チョン・ジヒョン イ・ジョンジェ ハ・ジョンウ オ・ダルス チョ・ジヌン

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