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佐藤 優 国家の罠 新潮社 [日記(2005)]

国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて

国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて

  • 作者: 佐藤 優
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/03/26
  • メディア: 単行本

 ↓で書いた本年度毎日出版文化賞受賞作.著者は鈴木宗男事件で名を馳せたあの「外務省のラスプーチン」佐藤 優.どうせ自己弁護の内幕ものと思って手に取ることもなかったが,毎日出版文化賞の受賞を機に読んでみた.
 第一級のエンターテイメント?である.田中真紀子の外相就任から宗男事件までの経緯を対露秘密交渉を交えて書いた第一~三章.逮捕から拘留・取り調べ,保釈とその後を書いた第四~六章.おおまかに二部仕立てである.
 鈴木宗男事件が,一般には伺い知ることの出来ない霞ヶ関と永田町の事件であり,事件の背景に外交問題があるため真実は藪の中である.我々が知らされているのは,社民党議員が「疑惑の総合商社」と鈴木宗男を批判した国会証人喚問のニュース映像であり,宗男ハウス,外務省のラスプーチンなどの報道である.鈴木宗男と佐藤 優が逮捕され事件は忘れ去られた.一連の事件は,外務省に刺さったトゲ田中真紀子,トゲを抜くために利用され,トゲが抜けた後その影響力を削ぐために葬られた鈴木宗男,そのあおりを受けた佐藤 優.一般に理解されているこの図式は非常に分かりやすい.

 事件の舞台となった外務省と外交は機密につつまれ,リリースされた報道以外国民の目に触れることはほとんど無い.(一般受けする北朝鮮問題などが幾分詳しく発表されるだけである.)前半では,ムネオ事件を俎上に,この外務省と外交の舞台裏が覗ける.外交における情報とは何であるのか,情報の取り方,個々の情報をつなぎ合わせて全体像を組み立てる手法など興味はつきない.また「高級」と思われる外務省の組織が,語学を仲立ちとする村の論理で動いていたり,対露外交に酒が飲めるか飲めないかがファクターであったり,ヘェ~というかやっぱりというか,野次馬根性を満たしてくれる.
 この本の山場は,東京地検特捜部の検事との駆け引きを書いた後半だろうと思う.「国策捜査」というkeyワードで明らかにされる事件の「真相」はなかなか説得力に富む.
 乱暴にいえば,司法(言い換えれば法律)は政治の従属物であり,政治は時代の風潮,世論の反映にしか過ぎない.という暴論からいえば,ムネオ事件は国家が舵を切る歪みから生まれた事件であった「らしい」.舵は二つの要因により切られた.

「国策捜査」とは何か,東京地検検事は取り調べの冒頭に言い放つ,

「これは国策捜査なんだから.あなたが捕まった理由は簡単.あなたと鈴木宗男をつなげる事件を作るため.国策捜査は『時代のけじめ』をつけるために必要なんです.時代を転換するために,何か象徴的な事件を作りだして,それを断罪するのです.」

佐藤 優によると「時代のけじめ」とは,内政,外交の二つけじめだという.
内政上のけじめは,日本経済の復活のために弱者救済型の「ケインズ型公平分配路線」政策から競争原理に基づく「ハイエク型傾斜配分路線」へ転換することであり,外交上のけじめは国際社会での地位強化のため(強気の外交をするため),国際協調路線から脱却するためのナショナリズム高揚である.
鈴木宗男はその選挙基盤を北海道東部に持ち,地元の声(弱者)を代弁する政治家である,また橋本政権時代から北方領土返還のために「日露平和条約」を進めてきた国際協調型の政治家である.2つ路線変更(けじめ)の交点に位置したのが鈴木宗男であった,ということであり,鈴木宗男を「汚職」のもとに葬ることで「時代のけじめ」をつけようとした事件であった,らしい.小泉政権の内政と外交をみると,この理屈は非常に分かり易い.
驚くことは,法の番人である検察と司法がこれを知りながら政治に荷担したということである.
 ことの真相は藪の中.この本の何処までが真実かなどどうでもよい.読んで面白い第一級のスリラーであることは間違いない.
これを読むと,「疑惑の総合商社」で名をあげ秘書疑惑で消えた,社民党議員の行動は,著者の云う「ワイドショーと電車の週刊誌の論調」で成り立っている日本の世論そのもである.本当に危険なのはこのことかもしれない.

絶対のおすすめ →☆☆☆☆☆


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