映画 世界最速のインディアン(2005年ニュージーランド/米) [日記(2008)]
DSilberlingさんのところで紹介されていたので観ました。
1962年、アメリカ・ユタ州、ボンネビル・ソルトフラッツでバイクによる世界最高速度記録を打ち立てたバート・マンローの実話に基づいた映画です。バート・マンローは1899年生まれで当時62歳、ニュージーランドから参加しての記録樹立ですから驚きます。このバート・マンローを演じるのがアンソニー・ポプキンス。レクター博士から精悍さが削がれ、62歳でなおスピードへの夢を持ち続ける老人を好演しています。隣家の少年トムと交わす会話、
『事故が怖くないの?』
『怖くない。こういうマシンでスピードの挑むときは
5分が一生に勝る
一生よりも充実した5分間だ
危険が人生に味を付ける。リスクを恐れてはいかん。
それが、生きるってことだ。』
『夢を追わない人間は野菜と同じだ。』
こうした警句が至る所に出てきます。アンソニー・ポプキンスの台詞だと、また違って聞こえるから不思議です。
バートは、スピードに取り憑かれ、ガレージでバイクの改造に明け暮れる一人暮らしの老人です(今じゃ62歳は老人ではないか?)。狭心症で前立腺肥大、ニトログリセリンが離せません。彼のバイクは1920年製のインディアン・スカウト、もともと最高速度88kmという年代もの。これを時速200kmを越えるバイクに手作りで改良しています。この手作りというのがいいですね。エンジンのピストンを自分で鋳、廃材を利用して部品を作ります。自作のパーツが並んだ棚には『Offerings to the God of Speed(スピードの神に捧げる)』なんて落書きがあり、この辺りはメカ好きには堪りません。
バートには夢があります。それは、このインディアン・スカウトを駆ってボンヌビル・スピードウィークで世界最高スピード記録を打ち立てることなのです。年金を貯めて家土地を担保に入れ、資金を作って、船のコックとして働きながらアメリカを目指します。
『世界最速のインディアン』はバートを暖かく送り出す故郷ニュージーランド、インバーカーギルの人々、モーテルのフロント係(実はオカマ)、中古車のディーラー、スピードウィークのスタッフなどロングビーチからネバダ州までの道中で出会う人々の善意、これらに応援されて世界記録を打ち立てる物語です。この、回りの人々が手を差し伸べないではいられないバードを、アンソニー・ポプキンスが演じます。イギリス人か?と聞かれて冗談じゃない俺はニュージーランド人だ、と云うシーンがいくつかあり、どうやら英語に訛りがあるらしくこの辺りの演技は私には分かりませんが、きっとさすがと云うところがあるのでしょう。
面白いと思うのは、老人の性をさりげなく挟んでいることです。バートには故郷に同年代のガールフレンドがいます。また、ネバダ州へ向かう途中、故障した車の修理に手を貸してくれた女性とも一夜を共にします。この女性も夫を亡くした同年代。朝になって、
『帰りに寄ると約束して、抱きしめて欲しいから。』
『もちろんそうするとも。古いバンジョーもまだ音は出る。』
『使わなきゃ錆びるだけ。』
『その通りだ。』
老人の性を人間同士の触れあいとしてさわやかに捉えています。
夢を持つことの素晴らしさを教えてくれる一編です。
監督:ロジャー・ドナルドソン
キャスト:
アンソニー・ホプキンス
実はこの映画江頭2:50氏の映画評論本で読んで観た作品です。
マイノリティの階層の人たちが協力する。この姿勢が好きです。
by ハーポ (2009-12-20 08:22)