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津本 陽 虎狼は空に -小説新選組- [日記(2010)]

虎狼は空に 上  小説新選組 (角川文庫)
 時代小説、それも歴小説を読んでいてとまどうのは、小説の主人公達はそこで年齢が止まっているのですが(龍馬は33歳で暗殺された)、コッチの方がどんどん歳を取ることです。当然と云えば当然なのですが、龍馬が薩長同盟をなしたのが32歳です。15歳で元服し人生50年の時代ですが、つくずく若いなぁと思ってしまいます。新選組も、清河八郎の浪士組に参加したのは近藤勇29歳、土方歳三28歳です。

 新撰組と云うとつい読んでしまいます。  司馬 遼太郎『燃えよ剣』『新撰組血風録』、子母沢 寛『新撰組始末記』外、池波 正太郎『幕末新撰組』などがメジャーなところで、浅田次郎『壬生義士伝』、北方謙三『黒龍の柩』もあり、澤田ふじ子『冬のつばめ』と云う毛色の変わった外伝もあります。で津本陽の新撰組は云うと、肉を切り骨を絶つ音が聞こえ、血の臭いがたち込める小説です。あの沖田総司でさえさわやかさは微塵もなく(言い過ぎ?)、土方歳三に至っては全身これ謀略のかたまり。司馬遼のロマンは影もありません。

 読む方は、新選組の事跡はあらかじめ知っていますから、芹沢鴨をどうやって暗殺したか、池田屋で攘夷浪人をどの様に斬ったか、もうお馴染みのストリーなわけです。津本版『新選組』で描かれるのは、芹沢、平山五郎が暗殺された後の芹沢一派で生き残った野口健司の恐怖であり、池田屋事件の後、刀の刃こぼれから隊士の働きを分析する土方の冷徹な眼です。刃こぼれの無い刀の所有者は、士道不覚悟として粛清の対象となります。新選組『局中法度』はつとに有名で、この法度をもとに新選組を鉄の規律の軍団に仕立て上げた土方の手腕は、どの小説にも大きく取り上げられています。池田屋事件は新選組を躍進させた事件なわけで、会津藩から金一封まで出ています。そんな中で、討ち入った隊士の刀を調べて、ひとりひとりのあら探しをやるわけですから、いやぁ土方歳三ならやりかねませんねぇ。ちなみに『局中法度』はこんな具合です。

一 士道に背くまじき事
一 局を脱するを許さず
一 勝手に金策致すことを許さず
一 勝手に訴訟を取り扱うことを許さず
一 私闘を許さず

右の条文に背く者には切腹を申し付ける

 で面白くないかと言うと、ロマンも爽やかさも、旧体制に殉じる美学も無いのですが、これが面白い。リアリズムの極致です(^^;)

 『夜明け前』の時代に士道という時代遅れの概念を持ち込み、流れに逆行した日本史ではマイナーな存在の新選組が、何故かくも人気があるのか?です。
 新撰組の活躍はもう眩しいほどです。彼らが歴史に登場するのは、文久3年(1863年)から慶応3年(1867年)、近藤勇の年齢で云うと29歳から34歳。このわずか5年の光芒が、彼らを永遠のヒーローとしたわけです。歴史の一コマに彗星の如く現れて燃え尽きた、これでしょうね。


タグ:読書
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