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映画 時代屋の女房(1983日) [日記(2012)]

あの頃映画 「時代屋の女房」 [DVD]
 「鬼龍院花子の生涯」の夏目雅子は今ひとつでしたが、「時代屋の女房」の夏目雅子はキラキラと輝いています。何でもかんでも任侠映画に仕立ててしまう五社英雄と森崎東の差でしょうか。
 夏目雅子に見惚れていると見逃してしまいそうですが、暗喩に満ちた実に不思議な映画です。この映画には、それぞれの事情を抱えた何組かの男女が登場します。

 
 
【様々な男女】
 
●安さん(渡瀬恒彦)と真弓(夏目雅子)
⇒映画の軸となる男女です。「鶴の恩返し」か「雪女」の様に、真弓はある日突然現れて古道具屋・時代屋に居着き、主人の安さんと暮らし始めます。真弓がどこから来たのか、どんな過去を持っているのかは全くの謎。これもお伽噺めくわけですが、理由もなく突然いなくなり、数日経って何事もなかった様に戻ってくることを繰り返し、ある日出て行ったきりふっつりと消息を絶ちます。真弓とは何者なのか、どこから来て何処へ行ったのか、一切が謎です。
 映画は、取り残された安さんの真弓探しの物語でもあります。

●安さんと美郷(夏目雅子)
⇒結婚のため故郷に帰る前の晩、押しかけるようにして安さんと結ばれます。翌朝美郷は、自分の乗った故郷に帰る電車をホームの端まで追いかけて欲しいと安さんに頼みます。この頼みは切ないですね。美郷は東京での生活に見切りを付けて故郷に帰るわけで、せめて、自分に追いすがる恋人がいるという仮想にひたりたかったわけです。
 この美郷も夏目雅子が演じていますが、美郷と真弓は表裏一体ということでしょう。
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 真弓                        美郷 

●真弓と若者(沖田浩之)
⇒この若者の登場で、映画の性格が大きく変わります。真弓は迎えに来た若者と時代屋を出て行きました。安さんと暮らしていた真弓は、若い男が出来て安さんを捨てた、と云う文脈ですが、後半この事情が明かされます。
 真弓は、ガンで母親を失い自殺寸前のこの若者と出会い、「身体を与える」ことで自殺を思いとどまらせ、その後請われるままに逢瀬を重ねてきたようです。真弓が突然いなくなるのは、この若者と会っていたからです。その後真弓は若者の前からも姿を消します。

●喫茶店のマスター(津川雅彦)とウェイトレスのユキちゃん(中山貴美子)
⇒マスターとユキちゃんは男女の関係にありますが、ユキちゃんはまた渡辺くんとも付き合っているという三角関係。マスターはユキちゃんと渡辺くんの関係に嫉妬しないという不思議な関係です。マスターは赤字の喫茶店をたたみ、小樽の友人を頼って東京を離れます。潰れた喫茶店を再開するのが、ユキちゃんと渡辺くんで、不思議な三角関係です。

●クリーニング店の主人(大坂志郎)とおかみさん(初井言栄)
⇒おかみさんが時代屋に持ち込んだ古いトランクから、昭和11年2月26日(二・二六事件当日)の未使用切符が出てきたところから、主人の過去が明らかになります。トランクは、年上の女性と駆け落ちするつもりで当日駅に行ったところ、父親に見つかり未遂に終わったという思い出のトランク。このトランクで青春を取り戻した主人は、故郷に帰り駆け落ちの相手と再会を果たしますが...。
 映画の冒頭で、「時代屋」という古道具屋は道具とともに「時代」を売っているんだという科白があります。このトランクは、「時代屋」を象徴するエピソードです。

●飲み屋の親爺(藤木悠)とおかみさん(藤田弓子)
⇒女子プロレスの選手だったおかみさんに親爺が惚れて一緒になったとか。おかみさんは、親爺にプロレスの技をかけてストレスを発散し、親父は喜々としてそれを受け入れています。夫婦の関係は他人からはうかがい知れないということでしょうか。

●安さんの父親と妾・松江(朝丘雪路)
⇒くも膜下出血で明日の命も知れない安さんの父親は、一度もスクリーンに登場しません。松江にセンセイと呼ばれるこの芸術家?は松江によって語られるだけです。母親の臨終にも来なかったことを恨みに思う安さんは、見舞いに行こうとしません。松江は、好きだったのは父親ではなく安さんだと告白します。この芸術家は、原作者・村松友視の祖父で戸籍上の父・村松梢風のことでしょう。

●美郷と鈴木健一(平田満)
⇒美郷の結婚相手の中学の体操教師・鈴木は美郷と安さんの関係を美郷から聞いていたようで、美郷が世話になったと安さんの宿に挨拶に来ます。好きな人が出来て出奔した事実が明かされ、鈴木は嫉妬に荒れ狂います。美郷は安さんのもとに戻ろうとした様ですが、盛岡に出かけた安さんとはスレ違いでまた故郷に帰ったようです。

【真弓とは何者か?】
 
 この様々な男女のエピソードで、映画は何を描いているのでしょうか。潰えた夢の代償行為として安さんに身を投げ出した美郷、中年のマスターと若い男の間で揺れるユキちゃん、若いクリーニング屋に駆け落ちを決意させた年上の女、夫にプロレス技をかける飲み屋のおかみさん、恋人の子を愛した松江、そして真弓。真弓は、若者の哀しみを癒すために身を投げ出します。

 ここで描かれるのは、夕鶴の「おつう」や雪女の「おゆき」原初的な女「性」です。安さんはさしずめ「与ひょう」でしょうか。別に「恩返し」はありませんが、何処からとも無く現れて生活をともにし去って行き、残された安さんは子供を抱いてオロオロはありませんが、女房恋しさに涙をこらえることには変わりありません。「おつう」は正体が露見して「与ひょう」のもとを去りますが、真弓は若者の自殺を止めるために安さんの元を去ります。時代屋に居着くまで、真弓は何処で何をしていたのか明らかにされていません。安さんとの関係、若者との関係を見ると、真弓は可哀想な、哀しい、孤独な男から男へ渡り歩く妖精か天使の様な存在ではなかろうかと、想像が膨らみます。春をひさいで村々を遊行する歩き巫女の現代版の様な気もします。

【覗きカラクリの秘密】
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夏目雅子のチラ!                  何故か武男はパンツいっちょう 
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 この映画には、「覗きカラクリ」が頻繁に登場します。「覗きカラクリ」とは何でしょう?どうも安さんと真弓は、古道具の買い付けで東北の田舎を行脚したことがあるようで、この時寂れた旅館「平野屋」で「覗きカラクリ」を見つけますが、その時は売ってもらえなかった様です。安さんはこの「覗きカラクリ」を時折思い浮かべ、「覗きカラクリ」の前で踊る真弓、「覗きカラクリ」の演目である「不如帰」のヒロイン浪子に真弓のイメージを重ねますが、BGMはいずれも春歌、猥歌です。安さん、マスター、鈴木健一、平野旅館の主人の4人が「覗きカラクリ」の前で春歌をがなりたてます。
 
 失踪した真弓は、マスターに電話をし、安さんにこの覗きカラクリが売りに出ている事を伝えます。安さんは真弓を探しに平野旅館に行き、鈴木健一と出会い ↑の春歌の大合唱となるわけです。このエピソードは、真弓が安さんを誘い出したんですね、私はここにいると。真弓と会えなかった安さんは「覗きカラクリ」を買って時代屋に帰ります(この帰途に「若者」と出会い、真弓と若者の関係を知ります)。「覗きカラクリ」とともに時代屋に帰り着くと、家出していた真弓の猫が戻り、真弓自身も帰って来るわけです。しかも、安さんが買えなかった南部鉄瓶を持ち、傘をくるくる回して帰ってきます。
 勝手な想像ですが、真弓とは「覗きカラクリ」の「精」じゃないかと思うんですが。映画の冒頭で、古道具屋は不要となって捨てられて道具を死なせずに生き返らせる、と真弓が言ってます。真弓は、捨てられる「覗きカラクリ」が生き残るために安さんの元に遣わした妖精なんでしょう。あるいは、「覗きカラクリ」に住む真弓が、カラクリと自分を守るために安さんに取り付いた?。
 であるならば、「時代屋の女房」とは怪異譚ではなかろうかと。

 牽強付会、取り留めもない感想になってしまいました。この2年の後、夏目雅子はガンで逝きます。佳人薄命を地で行ったような女優です。
 
 村松友視の原作読みました →コチラ 

監督:森崎東
出演:渡瀬恒彦 夏目雅子 津川雅彦 平田満 名古屋章

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