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映画 龍馬暗殺(1974日) [日記(2012)]

竜馬暗殺 [DVD]
 龍馬暗殺に至る数日間を描いたドラマです。モノクロで、荒れた映像が今となっては新鮮です。「竜馬 孤独な長距離ランナー……ナリ」などの字幕が挿入されるあたりは、サイレント映画を意識したのでしょう。
 龍馬、中岡慎太郎、大久保利通、岩倉具視などが登場しますから、維新の青春を描いたものかと思ったのですが、そんなわけはありません。原田芳雄、石橋蓮司、松田優作を起用して、日本の夜明けと言うことにはなるはずもありません。

 冒頭から、中岡慎太郎(石橋蓮司)が龍馬(原田芳雄)を斬るとか言ってます。龍馬と中岡はどちらも土佐の郷士で、ともに討幕運動に身を投じた漠逆の友の筈です。おかしいなと思って見ていると、陸援隊の仲間から、龍馬を斬らないことで責められ、軟禁される始末。
 侍同士が斬り合うシーンとともに「侍たちの内ゲバ 日常茶飯事……ナリ」という字幕が出て、やっと納得しました。 陸援隊が龍馬を斬るとうのは、ウチゲバなんですね。ウチゲバと言っても現在では死語です。仲間割れですね、物事がうまくいかないのはオマエのせいだと、仲間に暴力を振るうことです。同じ倒幕を志す竜馬と中岡が何故内ゲバをやるかというと、セクト(党派)が違うからです。

 中岡と陸援隊は、薩摩長州とともに、大政奉還した幕府に戦争を仕掛け滅ぼしてしまおうと云う政治的立場にあります。「革命は銃から」というわけで、300年の徳川体制を徹底的に武力で破壊しないことには、次の時代は来ないと考えています。
 一方坂本龍馬は、後藤象二郎を動かして大政奉還を実現したように、旧体制を温存したまま議会制による改革を図ろうというどちらかと言うと穏健派。
 おまけに中岡(陸援隊)は、薩摩と秘密軍事同盟を結んでいますから竜馬は邪魔者であり、斬ってしまえということのようです。ところが中岡は、土佐勤王党時代からの盟友である龍馬を斬ることができません。まぁ言ってしまえば、高校時代からの友人である竜馬と中岡が、大学ではセクトを異にし、オマエが間違ってるオレが正しいなどと言っている間にふたりして暗殺されてしまうわけです。

 この竜馬にからんでくるのが、娼婦の幡(中川梨絵)とその弟右太(松田優作)。
 右太は全く思想性の無い職業的暗殺者。腕を見込まれて薩摩に雇われ龍馬暗殺の機会を狙っていると云う設定です。何故右太が登場するのか今ひとつ分かりません。1)作中、岡田以蔵に似ているというセリフが出てきますが、いかにも幕末にいそうな「人斬り」を登場させることで、物語にふくらみを持たせた、2)龍馬暗殺が薩摩の謀略であるという傍証、なんでしょうか。結局右太は龍馬を斬れず、竜馬暗殺の巻き添えで殺されてしまいます。

 娼婦の幡の役割ははっきりしています。娼婦という最下層の視座の提供です。幡は龍馬を愛しているようないないようなフワフワした存在で、龍馬を斬りにきた暗殺者に竜馬の居所を教え、捕まりそうになると「ええじゃないか」の踊りに身を投じて消えます。龍馬を裏切ったと云う意識さえなく、我が身が危なくなると逃げるという、勤王も倒幕も一切存在しない龍馬や中岡の対極にいるわけですね。「ええじゃないか」の踊りの中に消えることで、娼婦・幡は「踊らされる」庶民の側の存在だと言いたいのでしょうね。どっちにしろ、龍馬と中岡は斬り殺され、幡は生き残ったということです。右太も死んでいますから、生き残ったのは女ひとりです。
 坂本龍馬と中岡慎太郎を材料に、1960年から1970年の政治の季節の終焉と、勝者は誰なのかを描いている映画だと思われます。

 歴史としての「龍馬暗殺」を期待する向きには、お薦めできません。

監督:黒木和雄
出演:原田芳雄 石橋蓮司 松田優作

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