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髙村薫 冷血 (上) [日記(2012)]

冷血(上)
 久々の合田雄一郎の登場です。雄一郎は『太陽を曳く馬』でも登場しますが、脇役にすぎず、合田雄一郎シリーズとしては、『レディー・ジョーカー』(1998)以来実に15年ぶりの登場となります。髙村薫はずっと読んできましたが、『晴子情歌』辺りから観念的になって読むのがシンドくなりました。ミステリを書いているつもりはない、とうそぶく髙村センセイですから、今回もミステリを期待しても無駄かな...。

 およそ髙村薫らしくない書き出しで、冒頭からコケます。高梨あゆみという12歳の少女が登場し、クリスマスの連休はディズニー・シーへ行くという高梨一家の華やぎと喧噪が描かれます。父親は都立病院の口腔外科の歯科医師、母親は大学の講師で町の歯科医の院長。本人のあゆみは、国立大学の付属中学に通い、『赤と黒』を読んで数学オリンピックを目指しているというオリコウさん。弟も同じ国立大学の付属小に通うという、絵に描いたような兄弟であり親子であり家庭。

 この高梨家のストーリーと並行し、6年の服役の後新聞配達をしている戸田吉生とパチンコ店の店員・井上克美のストーリーがカブります。吉生は、虫歯の歯痛を鎮痛剤で抑え、腐ったような日常にケリをつけようとさまよっている34歳。吉生がネットの求人サイトで克美の呼びかけに応じたことから、このコンビが出来上がります。
 タイトルが『冷血』(カポーティ)ですから、大体分かりますね。吉生と克美が高梨家を襲って強盗殺人事件を起こし、合田雄一郎するという建付けらしいです。
 
 「12歳と13歳の差をつくりだしているには制度だ」と日記に書くマセた高梨あゆみに比べ、吉生と克美は『黄金を抱いて翔べ』からお馴染み?のキャラクターで、髙村ファンとしては、あぁアレです。このふたりがネットで結びついたと云うのも、現代の人間関係の危うさの象徴なんでしょう。手っ取り早く金を手にするために、パワーショベルでATMを壊して失敗し、コンビニ強盗を働き、家族が連休で留守になる高梨家を襲います。
 留守のつもりで押し入った高梨家で家族と出くわし、夫婦と子供ふたりの家族全員を撲殺、キャッシュカードを盗んで16箇所のATMから1200万を引き出し、防犯ビデオに姿を晒すという杜撰な犯行に至ります。

 いざ、合田雄一郎の登場です。あれから15年も経っていますから、40歳を超えた雄一郎も警視庁第二特殊犯捜査4係の係長。警視庁では強行犯罪捜査が本流のようで、雄一郎の第二特殊犯捜査4係は、解決しない事件や医療過誤などの特殊な事件を扱う謂わば傍流。
 年末の一家四人惨殺事件を重く見た警視庁は、捜査一課8係と雄一郎の第二特殊犯捜査4係を投入し所轄を入れて50数名の捜査体制を布きます。
 雄一郎も管理職ですから、ダスターコートにスニーカー(マークスの山)というわけにもいかず、捜査会議では部下に白のワイシャツ着用を指示する立場。当然に軽快なフットワークは無く、50名の捜査編成表ばかり作っています。ポケットに文庫本は相変わらずですが、休日と早朝に千葉の農家を手伝うというガス抜きが必要な状況。

 ともかくも、上巻の第1章『事件』、第2章『警察』の滑り出しは快調です。福沢三部作の晦渋は無くなり、カギ括弧(「」)の無い会話と、読点を連ねた長い文章を重ねるリズム感でテンポよく進みます。
 コンビニ店員の証言で克美の身元が割れ、神戸で吉生が捕まり事件は上巻であっけなく解決します。犯人探しが主題ではない『冷血』の下巻で、斜めに構えた自暴自棄の吉生と克美が犯す強盗殺人事件の真相に、合田雄一郎はどう迫るのか?、です。
 いざ下巻。 

タグ:読書
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