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映画 アーティスト(2011仏) [日記(2012)]

アーティスト コレクターズ・エディション [DVD]
 珍しさも手伝ってのことでしょうが、モノクロのサイレント映画というのものがこんなに豊かなものとは思いませんでした。それだけ監督ミシェル・アザナヴィシウスの腕がいいのでしょう。俳優の口パクに併せて、見ているこちらが何時の間にやら頭が勝手に科白を作っているんですね、自分で笑います。セリフが無いので、俳優の表情を真剣に見てしまいます。映画の中で、サイレントは演技が過剰だと云うセリフがありますが、逆ですね。セリフがある分、演技がおろそかになっている部分があるかもしれません。映像や音に頼れない分、脚本と役者の演技力が要求されます。主演のジャン・デュジャルダンの豊かな表情を見ているだけで、映画を堪能できます。
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 ジャン・デュジャルダン              ベレニス・ベジョ
 
 ストーリーの方は、それほど新鮮ということはありません。映画界がサイレントからトーキーに移る過渡期、サイレントの大スター・ヴァレンティン(ジャン・デュジャルダン)がトーキーの波に乗れず、乗ることを拒否して落ちぶれてゆき、一方サイレント時代のエキストラ、ペピー・ミラー(ベレニス・ベジョ)がトーキーの時代にスターになるといういう物語です。
 ペピー・ミラーは、自分が映画界に入るキッカケを作ってくれたヴァレンティンに恩義を感じていて、最後は自分の主演映画に共演して恩返しをするという、何処かで聞いたような話です。
 この新旧の交代は何時でも何処にでもある話で、さしずめ、昨日までの優良企業が技術革新に遅れをとって落ちぶれてゆくようなものですね。スマホの出現によって圧倒的シェアを誇ったウィンテルが、googleとapple、クアルコムにとって代わられた様なものです。シャープとパナソニックの経営が傾いてsamsungが元気良くなり...あれ、何の話でした?。

 『アーティスト』は、落ち目のヴァレンティンがペピーと云う援軍があって見事返り咲く予感で終わります。この返り咲きが、見事なタップダンスです。ダンスであればトーキーでもセリフを喋る必要もなく、ヴァレンティンの得意技です。サイレントで培った演技はトーキーになっても色褪せず通用したわけです。シャープもパナソニックもそして日本の産業も、このヴァレンティンの様に蘇って欲しいものです。
 古い技術にこだわって時流から見放されはしたものの、その技術によってよみがえるという教訓的な映画です(笑。

 タイトルの『アーティスト』です。今後はトーキーでゆくサイレントは作らないと宣う映画会社の社長にむかって、ヴァレンティンがサイレントこそアートでありそれを作る者こそアーティストだ、とか言っていることに拠ると思われます。なかなか意味深です。『アーティスト』は、3DやFSXが巾をきかす昨今、映画の本質とは何かを映画界に突きつけた、とも言えるのではないでしょうか。

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 サイレント映画は、チャップリンの幾つかを見ただけでよく知らないのですが、おそらくこのシーンはサイレントの名作からのパクリ、オーマージュではないかと想います。ペピーがヴァレンティンの楽屋に入って、鏡に口紅でthank youと書いた直後のシーンです。ヴァレンティンのタキシードに自分の腕を通して自らを抱きしめています。

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 『クィーン』でフィリップ殿下を演じたジェームズ・クロムウェルが、ヴァレンティンの忠僕兼運転手で出演しています。この映画の出演者の中で特筆すべきは「犬」です。冒頭からラストまで出ずっぱりで熱演を見せてくれます。ジャン・デュジャルダンが主演男優賞なら、この犬(アギーというらしいです)は間違いなく助演男優賞(雄?)でしょうね。と考えていたら「“犬”版アカデミー賞と言われる第1回ゴールデン・カラー賞(金の首輪賞)」を受賞したという記事がありました。wikipedia『アーティスト』のキャストにも、ジャン・デュジャルダン、ベレニス・ベジョに続く序列第3位で載っています。

 文句のないお薦めです。

監督:ミシェル・アザナヴィシウス
出演:ジャン・デュジャルダン ベレニス・ベジョ アギー(犬) ジェームズ・クロムウェル

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