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藻谷浩介 デフレの正体 経済は「人口の波」で動く [日記(2016)]

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)
 経済など全く不案内なのですが、『里山資本主義』が面白かったので読んでみました。知らなかったのですが、かなり有名なベストセラーです。

 副題に「経済は『人口の波』で動く」とあるように、人口構成の変化が日本経済に及ぼす影響を分析し、その処方箋を述べています。一言で言えば、日本経済を牽引してきた「団塊の世代」の定年とともに生産年齢人口(15歳~64歳)=消費者人口 が減少し、それに伴う内需不振が景気を減速させている、では処方箋は?、というものです。
 
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 1970年に7157万にいた生産年齢人口が1995年に8716万人とピークを迎え、2005年には7681万人、2025人は7096万人、2050年には4930万人と減少してゆきます。それに引き換え後期高齢者は1970年に221万人から2015年に1645万人、2025年に2167万人、2050年には2373万人に増加していきます。 1970年に100:3であったものが、2025年には100:30、2050年には100:48となります。
 考えてみれば当たり前の話で、日本の経済は突出して多い団塊の世代の旺盛な消費によって支えられてきたわけです。健康と老後の不安を抱え彼らが、年金生活に入ればお金を使わなくなるは当たり前の話しです。不景気は、景気循環論による不景気ではなく、生産年齢人口=消費者人口 が減少によって起こっている、という仕組みがデータを使って述べられています。
 著者はデフレの正体を、

生産年齢人口=消費者人口の減少 →供給能力過剰 →在庫積み上がりと価格競争激化 →在庫の時価の低下(在庫が腐る)。その結果発生した消費者余剰は、高齢者が老後に備えて確保する極めて固定性の高い貯蓄(=将来の医療福祉負担の先買いという一種のデリバティブ購入)と言う形で「埋蔵金」化してしまい、経済社会に循環していません。腐った在庫は最終的に叩き売られて企業収益を下げています。

 笑ったのは(笑い事ではないのですが)、平均寿命長い日本では、遺産相続の受け手がなんと67歳。67歳は生産年齢からはずれていますから、相続した財産は使われず死蔵されます。
  現役世代がリタイア世代の福祉と医療と生活(年金)を支えるという現在の仕組みは、現役世代(生産年齢人口)の減少と団塊の世代の高齢化にともなって破綻しつつあることは、誰の目にも明らかです。この破綻も、生産年齢人口=消費者人口の減少という「人口の波」が原因で、起こるべくして起こっているわけです。
 「人口の波」を無視して、「財政出動」「金融緩和」「成長戦略」によって打ち払おうという「アベノミクス」批判というのが著者の主張で、当然リフレ派から批判が続出しているようです。

 生産年齢人口=消費者人口の減少はどうあっても食い止めることはできないわけです。ではどうすればいいのか?、処方箋はというと、やっぱり生産年齢人口=消費者人口を支えるしかないわけで、
 
第9講 ではどうすればいいのか① 高齢者富裕層から若者への所得移転を
若い世代の所得を頭数の減少に応じて上げる「所得一・四倍増政策」
団塊世代の退職で浮く人件費を若者の給料に回そう
若者の所得増加推進は「エコ」への配慮と同じ
「言い訳」付与と「値上げのためのコストダウン」で高齢者市場を開拓
生前贈与促進で高齢富裕者層から若い世代への所得移転を実現
第10講 ではどうすればいいのか② 女性の就労と経営参加を当たり前に
現役世代の専業主婦の四割が働くだけで団塊世代の退職は補える
若い女性の就労率が高いほど出生率も高い
第11講 ではどうすればいいのか③ 労働者ではなく外国人観光客・短期定住客の受入を
高付加価値率で経済に貢献する観光収入
公的支出の費用対効果が極めて高い外国人観光客を誘致!

となるわけです。面白いのは、アベノミクスを支えるリフレ派から批判される『デフレの正体』の処方箋が、当の安倍内閣で徐々に実践されていることです。
 経済はよく分かりませんが、オイルショックの後の安定成長期、バブル景気だ、失われた10年だ、なんだかんだという景気の波に翻弄されてきた身にとってみれば、著者の論の進め方は「なるほど」と肌で実感します。

 著者は「おわりに――『多様な個性のコンパクトシティたちと美しい田園が織りなす日本』へ」で
 
 生産年齢人口が3-4割減った後の国土の姿はどうなっているのでしょうか。戦後半世紀を支配した、土地開発地域拡大・容積率上昇・土地神話といったものは、すべて崩壊しています。人口減少に合わせて土地開発地域を縮小し、旧来の市街地や農山村集落を再生し、中途半端な郊外開発地は田園や林野に戻すこと(コンパクトシティ化)が各地で進むでしょう。
・・・ 土地保有が貯蓄手段ではなくなっていく中で、工芸品や美術品、銘酒、名車、名盤、優れた建築物など、ヴィンテージの付く商品の購入が代わりの貯蓄手段となっていき、社会の中で文化やデザインの占める地位が年々高くなっていくことでしょう。
 大量生産商品市場がゆっくり縮小する一方で、地域地域の個性を活かした手作りの地産地消品を供給する零細事業者が増え続けます。海外から安価な大量生産普及品を購入する流れも拡大しますが、他方で少し遅れて人口成熟して来るアジア諸国などに向け、そうした高価な地産地消品を輸出する流れも年々太くなっていくでしょう。
 
と日本の未来を描いています。この結末から『里山資本主義』に続くのでしょう。2050年まで生きていることはないですが、どんな未来が来るのか、見てみたいものです。
 面白いです、お薦めです。 

タグ:読書
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