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映画 マグニフィセント・セブン(2016米)と七人の侍 [日記(2017)]

マグニフィセント・セブン [DVD] 黒澤明『七人の侍』のリメイクです。リメイクには『荒野の七人』があるわけですが、これに飽きたらず新たな『七人の侍』を作ったわけでしょう。農民が侍を雇って野武士と戦うというストーリーを軸に、七人の侍の個性と戦い方に、それぞれの監督の腕の見せ処があるわけです。

 オリジナルでは、農民に、藤原鎌足、左朴全、土屋嘉男といった芸達者を揃え、侍に志村喬、三船敏郎、千秋実、宮口精二など個性的な俳優を配し、野武士に妻を奪われた農民の苦悩、木村功と津島恵子の恋も交え農民と侍双方とその距離がバランスよく描かれました。

 『荒野の七人』では、農民は描かれず七人の侍(ガンマン)にスポットが当たり、雇い主の農民は置き去りにされています。 『マグニフィセント・セブン』ではどうなのか?...。

【背景】
 野武士集団に相当するのが金の採掘会社。金鉱のために近くの街をまるごと乗っ取ろうと企てたのが事の始まり。これに反対する住民が無惨に撃ち殺され、未亡人のヘイリー・ベネットが復讐のために七人の侍を雇います。

 野武士は、戦に負けた侍が徒党を組んで盗賊となったものです。一方では、この侍を狩る農民(落武者狩り)が存在し、集団の暴力で弱者から掠めるという意味ではどっちもどっち。落武者狩りはアルバイトみたいなものですが、野武士は農民から食料を奪わねば生きてゆけないという存在でもあります。七人の侍も負け戦、落武者狩りを経験しています。さらに、三船敏郎の演じる菊千代は農民が侍に成り上がろうとして成れなかった人物。そうした多層構造が黒澤の『七人の侍』には背景としてあります。
 『マグニフィセント・セブン』では悪役はあくまでも悪役です。野武士の悲壮感は何処にもなく、金の採掘のためには弱者を蹴散らすという資本主義が貫徹する米国ならではの悪役。町の住民も、かつて開拓者の面影はありません。

【七人の侍】
 リーダー島田勘兵衛(志村喬)に相当するのがサム・チザム(デンゼル・ワシントン)。ヘイリー・ベネットに頼まれて金採掘業者ボーグから町を守る仕事を引き受けます。島田勘兵衛は、農民の悲惨さに同情し引き受けたのですが、チザムの動機は(ラストで明かされますが)個人的な復讐。まことに分かり易い。
 チザムは北軍加わっていたという過去があり、現在は犯罪者を捕まえる委任執行官、早い話が賞金稼ぎ。沈着冷静でリーダーとしての資質は十分なのですが、島田勘兵衛のような洒脱で人間的魅力で集団を統率するタイプではなさそう。南北戦争時代にグッドナイト(イーサン・ホーク)と接触があったようで、戦争のトラウマを抱えるグッドナイトの方が陰影を持った人物として描かれます。

 残る6人も、普通にプロフェッショナル。ギャンブラー(クリス・プラット)、お尋ね者のメキシコ人、猟師、毛色の変わったところでは、ナイフを使う東洋人(イ・ビョンホン)と弓の名手コマンチ族のインディアン。
 七人の侍が農民に戦いを教えるシーンも、一応取り入れられています。オリジナルでは左朴全の名演技がありました。ライフルですから味気ないです。

【戦い】
 刀槍、弓矢、竹槍とライフルの差です。オリジナルの雨のなか泥にまみれた壮絶な闘いは映画史の残る名シーンです。アメリカの大草原ですから、野武士の馬を一頭づつ村に入れて討ち取るというチマチマした戦闘はあり得ません。大量の馬と人を動員して派手にやります。ガトリング砲(機関銃)が登場したのには笑いました。物量と最新技術というのが、アメリカの文化なのでしょう。日本人には、インディアンの弓矢、イ・ビョンホンのナイフが合ってます。

【ラスト】
 どちらも農民と七人の侍の勝利で終わるわけです。決定的な違いは、オリジナルが農民vs.野武士で終るのに対し、リメイクの方はチザムvs.金採掘業者で終わることです。オリジナルは、農民の笛と太鼓の早乙女の田植えシーンと、今度も負け戦だった(勝ったのは農民)という島田勘兵衛の独白で終わります。リメイクの方は、家族を殺されたチザムの復讐で終わります。
 集団と集団の物語ではなく、個人の復讐の物語だったわけです。

 8人の兵士がライアン二等兵を救出する『プライベート・ライアン』こそが、『七人の侍』の正当なリメイクなのではないかとう意見を見ましたが、卓見だと思います。しからば日本映画のリメイクはと云うと、これは『十三人の刺客』(19632010)ではないかと思います。
 リメイクはオリジナルを超えられない、という映画です。

監督:アントワーン・フークワ
出演:デンゼル・ワシントン クリス・プラット イーサンホーク

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