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お手軽簡単 読書感想文 西村淳 面白南極料理人 [日記(2018)]

面白南極料理人 (新潮文庫)
 夏休みも残り少なくなって、当blogも読書感想文へのアクセスが増えてきました。ちなみに、アクセス数は『スローカーブをもう一球』がダントツです。毎年読書感想文ひとつ追加していますが、最近の読書は司馬遼太郎、明治維新、ゾルゲに高橋和巳ですから、中高生の読書感想文にはなりません。最近読んだ『面白南極料理人』が手軽に読めて中身もシンプルですから、今年はこれを追加します。

西村淳 面白南極料理人
 南極には昭和基地以外にもあすか基地、みずほ基地、ドームふじ基地の3つの観測基地があります。本書は、昭和基地から1000kmも離れた内陸、標高3800mの高地にある「ドームふじ基地」で越冬する9人の観測隊員の話です。
 ドームふじ基地は富士山より高い標高3800mの高地にあり、酸素は平地の8割ほど、水は85℃で沸騰し、平均気温はマイナス51℃。ペンギンもアザラシも、ウィルスさえ生存できない文字通りの極地で、そんな環境で人間が1年間暮せばどうなるのか?というドキュメントです。著者は、越冬隊員の食事を賄う海上保安庁出向の調理担当で、「食」に絞り込んで越冬生活を描いています。どんな環境でも「食べる」ということは生存の第一の条件ですから、料理、調理を描けば、南極の環境と隊員の生活が、。

 当然ですが食料はすべて日本から運ぶことになります。すべてが凍りつく平均気温マイナス50℃の世界ですから、料理の材料はすべて凍りつきます。調理担当の苦労は、この食材集めから始まります。冷凍食品を持っていけばいいだろうと考えがちですが、365日冷凍食品を解凍して食べる生活は味気ないもので、栄養的にも問題がありそうです。観測基地を一歩出れば凍りついた雪原、狭い空間に閉じ込められ、9人の人間が顔を合わす生活ですからストレスは想像以上だと思われます。そのストレスを解消するのが食事。南極の料理人は、生活に潤いをもたらす食事を出すことが使命となります。

 肉魚は冷凍で問題ありませんが、卵や豆腐、生麺は解凍しても元の品質には戻らないようです。著者は、解凍しても美味しく食べられる食材を求めて駆け回ります。南極料理人の仕事の半分は、この南極で使える食材の収集です。生野菜は手に入りませんから、レタスやカイワレを人工栽培することになります。南極料理人はこうして集めた食材を使って、美味しい食事を隊員に提供し1年を乗り切ります。
 ドーム基地の献立はけっこう贅沢です。伊勢海老、カニ、フォアグラを使った料理や、時にはフランス料理のフルコースまであります。フォアグラまでは驚きませんが、20kg60万円の松阪肉にはビックリ(注文ミスだそうですが)。この本が出て、文科省のチェックが厳しくなったのではと心配します。
 もうひとつが水。飲料水以外に炊事洗濯風呂と水が生活の基本です。すべてが凍りつく世界に水はありません。南極を「白い砂漠」と言うそうですが、ナルホド砂漠です。基地を一歩出れば水の原料は無限大にありますから、隊員は毎日氷を切り出して溶かして「水を作る」作業に汗を流します(汗も凍りつく!)。空気を含んだ雪原の氷は、溶かすと体積比20%に減るそうで、水を作る作業は結構な重労働。
 従って「節水」がドーム基地の厳格なルール。ひとり7リットルに制限されていますが、贅沢にお湯出しっぱなしのシャワーを使う隊員も出てきます。貯水槽の減り具合から犯人を割り出し「コノヤロー」。笑いますが切実な話です。話の性質上(関係者には個人が特定できるため)際どいいさかいの話はありませんが、「コノヤロー」で終わらないヤバイ話もあったことでしょう。

 パーティー、宴会を開いて生活に潤いをもたらすのも南極料理人の重要な仕事です。隊員の誕生パーティーや冬至を祝う「ミッドウインター祭」等以外にも、ことある毎に宴会が開かれます。宴会には料理がつきもので、全員で準備します。飲んで食べる以外にこうした全員参加のイベントが隊員のストレス解消に役立ったと思われます。

 越冬隊員は、研究者4人に、研究補助、車両、通信、医療、調理とサーポートが5人という構成です。本業が成り立つためにはサポートいかに大事かということでしょう。ドクターの46歳を筆頭に30代~40代のオッサンの集団です。日本に帰れば分別のある大人が、娯楽もない極地に1年以上閉じ込められると、オッサンが「少年」に変わります。パン屋や飲み屋を開業し、雪原でソフトボール、バーベキューを楽しみ、何かといえば宴会を開きます。学生寮の共同生活みたいなものです。9人の少年のキャンプ生活の物語です。

これで約1700字。段落で1行使えば原稿用紙5枚弱です。本書は『南極料理人』として映画にもなっています。こちらの方も面白いですが、脚色がありますから、映画だけ見て感想文を書くと読んでいないことがバレます(笑。

タグ:読書
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