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映画 最初の人間(2011仏伊アルジェリア) ~植民地に生まれるということ~ [日記 (2021)]

最初の人間 [DVD] 最初の人間 (新潮文庫)  ノーベル賞を受賞し1960年46歳の若さで事故死したアルベール・カミュの伝記映画です(原作は遺稿『最初の人間』)。映画はノーベル賞を受賞して名を遂げた1957年、カミュ(ジャック・ガンブラン)が1歳の時第一大戦で戦死した父親の墓を探すシーンから始まり、その後アルジェリアの母を訪ね少年時代を振り返ります。アルジェリアで生まれ本国で成功したカミュが、故郷を訪ね、自分の出自と植民地アルジェリアとの関わりを語ります。

 アルジェリアはフランスの植民地。フランスはアルジェリアを公式には植民地とせず、法的にフランスの一地方=県としています。日本と戦前の朝鮮と似た関係です。カミュがアルジェリアを訪れた1957年は、フランス支配からの独立を目指す運動の最中であり、フランスは20万を超える兵力を投入しこれを弾圧します(アルジェリア戦争)。そんな状況下でカミュはアルジェを訪れます。
 アルジェリアに帰ったカミュは母校のアルジェリア大学で講演し、カミュの政治的立ち位置が説明されます。大学には「帰れカミュ、我々に裏切り者など無用だ!」という懸垂幕が掲げられ、カミュは「アルジェリアはフランスのものだ」とアジられます。カミュの講演は、

アルジェリはフランスではな、いこの国には2つの人々が住んでいる。イスラム教徒と・・・もうすぐ消える!」とヤジ・・・作家の義務とは、歴史を作る側でなく歴史を生きる側に身を置くことです。アラブ人とフランス人が共存できる可能性がある...。

カミュは、アルジェリアの独立と、アラブ人とフランス人の共存を呼びかけ、紛糾する教室を「フランス領アルジェリア」という横断幕が駆け巡ります。アルジェリアのフランス人は、独立かフランスかの政治的立場を問われるていたことになります。

 カミュは1913年アルジェリア、コンスタンチーヌ県に生まれ、1940年にパリに行くまで27年間を故郷アルジェリアで過ごしています。代表作『異邦人』『ペスト』の舞台が故郷アルジェリアですから、カミュの思想的風土はその地で培われたといっていいでしょう。
 小学校の授業で教師は第一次世界大戦のスライドを映し、兵士は「祖国」ために命を捧げたと解説します。カミュ少年は同級生に「祖国とはグランスのことか?」と尋ね、「パパも祖国のために死んだ」とつぶやくシーンがあります。フランス人とアラブ人がともに学び、ともにサッカーに興じる小学生の少年にとって、祖国とはここアルジェリアなのか海の向こうのフランスなのかという違和感、アルジェリアで暮らしていた父親が何故「祖国」のために遠くフランスの地で死んだのかという疑問が生まれます。映画は、カミュの精神の根はこの違和感だと言います。

 カミュは1歳で父親を亡くし、母方の実家に戻り、母親は病院の洗濯婦をし、カミュも叔父の勤める工場で働きながら小学校に通うという貧しい生活を送ります。小学校を卒業し叔父の工場で働く予定が、彼の才能を認める教師の推薦で奨学生として高等中学校へ進学します。カミュはこの小学校の教師を生涯の恩人とし、ノーベル賞受賞の記念講演はこの小学校教師へ捧げられています。
 今回の帰郷でカミュはこの小学校教師を尋ねます。教師は、「ロシアはトルストイとドストエフスキーの中にあるようにアルジェリアの悲劇を小説に書け」と勧めます。「自由・平等・博愛のフランスが、アルジェリアではいかに変わったかを書け」と。難しいと答えるカミュに、「コリントには宿命と暴力の二つの神殿がある、この二つは隣接しているからどちらからでも入れる」「過ちとは革命のことではなく、被抑圧者が革命を諦めることだ、抑圧者の暴力が被抑圧者の暴力を生む」ともいってますから、この元教師はかミュニに「反抗」を推奨したのです(『反抗的人間』という著作がある)。

 カミュは旧知のアラブ人の息子が独立運動で逮捕されていることを知り(無実らしい)、保釈に力を尽くします。このアラブ人は、生意気だとカミュ少年喧嘩を吹っ掛けた小学校の同級生。カミュの努力も虚しく死刑となります。フランス人のノーベル賞作家も無実のアラブ人をフランス官権の手から救い出せなかったのです。
 カミュは、叔父訪ね、自分が生まれた農場を訪ね、アイデンティティーを模索します。フランスに戻る日、カミュは母親に一緒に来ないかと誘います。母親の答えがこの映画の結論です。

フランスにはアラブ人がいない。

 カミュは「実存主義」の作家であるといわれます。そうした哲学的修辞の後ろには、植民地のフランス人と宗主国のフランス人の間で「宙吊り」になった、アイデンティティーを喪失した一人の人間がいる、映画はそう言っているかのようです。

 というマイナーな映画なのであまりオススメできません、カミュに興味がおありになれば別ですが。カミュを演じたジャン二・アメリオはジャン・ベッケル『クリクリのいた夏』に出ていました。こちらの方がオススメです。

監督:ジャン二・アメリオ
出演:ジャック・ガンブラン , カトリーヌ・ソラ 

タグ:映画
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