スピルバーグの ウェストサイド・ストーリー(2021米) [日記 (2024)]
スピルバーグのリメイクですからどんなヒネリがあるのかと思ったのですが、1961年の『ウェストサイド物語』そのままで音楽もレナード・バーンスタイン。マリアとトニーが「マリア」「トゥナイト」を歌い、「アメリカ」に合わせてダンスが踊られます。懐かしいと言えば懐かしいですが、何処がスピルバーグ?というリメイクです。
『ウェストサイド物語』は現代のNYを舞台にした『ロメオとジュリエット』です。むかし観た時には歌と踊りに目を奪われて気が付かなかったのですが、この映画の主人公であるトニー(ロメオ)はポーランド系白人、マリア(ジュリエット)はプエルトリコ移民です。WASPがアメリカの保守本流であるとすれば、二人はマイノリティー。登場人物も殆どポーランド系とプエルトリコ移民で、言葉も英語とスペイン語。1961年にマイノリティを主人公にしたミュージカルが作られヒットしたわけです。
スピルバーグは何故半世紀後の2021年に『ウェストサイド物語』をリメイクしたのか?、しかも新たな解釈もなく原作に忠実に。型通りポーランド系とプエルトリコ移民の抗争の中でマリアとトニーのラブストーリーが進行しトニーは死にます。
挿入歌「アメリカ」、男女のプエルトリコ移民が道路で踊る有名なシーンです。
ここが好きアメリカ 不満はないアメリカ 自由の国アメリカ(女性)
カードで買物 → 移民をボッタクリ
一家に1台洗濯機 → 洗う服もないのに?
新築の広い家 → 移民にはドアを閉ざす
いい暮らし アメリカ → 白人だけさ アメリカ
公害だらけアメリカ 犯罪組織アメリカ ひどい所さアメリカ(男性)
女性たちはアメリカは自由で豊かだと礼賛し、男性たちは、それは白人の話だアメリカは人種差別と貧富の差が激しいと男性たちは歌います。
ポーランド系「ジェッツ」が勾留された警察で歌う「Gee,Officer Krupkee(クラプキ巡査どの)」では、
俺等育ちが悪いんです
お袋はクスリ漬け 親父は酒浸り これじゃ当然クレちまう
クラプキ巡査 あんまりだ
親の愛情知らずにきたけど ワルじゃない 誤解です
50年経っても同じじゃないか、と言いたいわけです。だからスピルバーグは『ウェストサイド・ストーリー』を1961年のオリジナルを改変しなかったのかも知れません。
2024年11月にアメリカ大統領選挙が行われます。民主党支持のスピルバーグは、マイノリティ擁護、銃規制などが込められたこの映画をドナルド・トランプのポピュリズムにぶつけたのでしょう。
決闘に向かうジェッツとシャークスのバックで流れるのは、皮肉にも愛の歌「トゥナイト」です。
トゥナイト 今夜 夜よ明けないで どうか明星も輝かないで
トゥナイト 今夜愛する人に逢う 二人のために 星々よ 消えないで
監督:スティーヴン・スピルバーグ
音楽:レナード・バーンスタイン
出演:アンセル・エルゴート、レイチェル・ゼグラー
【追記】
よく言われる様に、トランプが出てきた背景はに白人中間層の没落があると言います。この映画が作られた1960年代は自動車産業など製造業ががアメリカの基幹産業で、製造業に勤める白人が「いい暮らし アメリカ」を謳歌しています。その後製造業は中南米に工場を移し中南米からの移民が激増し、製造業に勤める白人=白人中間層は没落してゆきます(ラストベルト地帯の白人中間層の没落)。この映画のマイノリティが台頭するわけです。
スピルバーグがこの映画を大統領選挙にぶつけたとするなら、それは両刃の剣ではないかと?。親世代ように繁栄を謳歌出来ないベビーブーマーは、コイツラこそ元凶だとトランプ支持に回るんではなあいか、と思ったりします。
タグ:映画
2024-02-27 08:05
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