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辺見 庸 もの食う人びと 角川文庫 [日記(2005)]

もの食う人びと

もの食う人びと

  • 作者: 辺見 庸
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1997/06
  • メディア: 文庫

 あとがきに云う「人間社会の正邪善悪の価値体系が、主として冷戦構造の崩落により割れちらばり、私たちはいま大テーマのありかを見失っている。現在のなにを描いても、浮き出てくるのは、体系なき世界の過渡的一現象にしかすぎないのではないか。この漠然とした認識のもとに『もの食う人びと』という、丈が低く、形而下的で、そぞろに切ない、人間の主題を見つけた。高邁に世界を語るのでなく、五感を頼りに『食う』という人間の絶対必要圏潜り込んだら、いったいどんな眺望が開けてくるのか。」

 人種、民俗、宗教、政治が異なろうが、戦争の時も平和な時も幸福であろうが不幸であろうが、生きている限り人間は食わなければならない。この「食う」という視点でアジア、ヨーロッパ、アフリカ、ロシアを旅した食のフィールドワーク。講談社ノンフィクション賞、JTB紀行文学賞を受賞している。前者はともかく、後者の受賞は著者もとまどったことと思われる。

 スタートはバングラディッシュのダッカ。¥にしてわずか十数円の骨付きマトンとピラフを「食う」、これが残飯であったと著者ともどもショックを受けることから旅が始まる。
著者の旅は、ダッカからフィリピン、ベトナム。ポーランド、クロアチアの東ヨーロッパ。ソマリア、エチオピアなどのアフリカ。ロシアを経て韓国で終わる。クロアチアの戦場の村、ソマリアの飢餓、ウガンダのエイズ、チェルノブイリの原発など、著者はことさらに悲惨と異常の「風景」のなかで「食う」ことの在りようを書く。この辺りは、もっとほかにあるんじゃないのと思わないでもない。が、これでもかという異常の風景に食う行為を見たいという著者には、飢餓の予感があるからである。
 1992年の執筆当時と状況はすこしもか変わっていない。団塊の世代を含むそれ以前の世代にはお勧め。

個人的好みから云うと →★★★☆☆


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