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村上春樹 海辺のカフカ 新潮文庫 [日記(2007)]

海辺のカフカ (上)

海辺のカフカ (上)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/02/28
  • メディア: 文庫


 物語りは2部構成で進行する。「15歳の誕生日がやってきたとき、僕は家を出て遠くの知らない街に行き、小さな図書館の片隅で暮らすようになった」中学生の「田村カフカ」の物語と、猫語を話し失踪した猫の捜索を職業とする「ナカタさん」との物語である。 二人の主人公の外、(他の物語同様)魅力的な脇役が登場する。主人公カフカが暮らすこととなる四国の私立図書館の司書「大島さん」、女性館長「佐伯さん」。「ナカタさん」を助け、この物語の狂言回しの役目を担うトラック運転手「ホシノさん」、家出したカフカを最初に助ける美容師「さくらさん」。「さくらさん」は『ダンス・ダンス・ダンス』に登場する「ユミヨシさん」を彷彿とさせる作者おなじみのキャラクターで、物語の最初と最後に登場し、主人公の再生のメタファーの役割を担っている(「さくらさん」が登場した途端、ファンは、それと分かる)。「ジョニー・ウォーカーさん」と「カーネル・サンダースさん」も忘れてはいけない。ウィスキーとフライドチキンでは無い(^_^;)。
ご注意!ここからは少し踏み込みます、ネタばれの可能性があります。
 本書にも死と再生が色濃く漂っている。死と云っていいかどうか、『羊をめぐる冒険』や『ダンス・ダンス・ダンス』で羊男が住む世界(ドルフィン・ホテルの闇)であり、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』の地底世界やワンダーランドであり、『ネジマキ鳥クロニクル』の井戸が象徴する異界である。カフカの肉体を借りて、佐伯さんが20歳で死んだ恋人と会う世界は、源氏物語で六条御息所が生霊となって夕顔や葵上を取り殺す世界である。
村上春樹の世界は全部、この異界をくぐり抜けて現世に再生する物語なのかもしれない。
 「ナカタさん」について触れない訳にはいかない。羊男とともに村上春樹が造形した最もユニークな人物のひとりであろう。集団催眠に陥り過去の記憶をすぺて失ったと云う経歴を持つ故、猫と話ができ、異界と現実の両方に属し、主人公が再生するという物語の主題の重要な役割を担っている。
 もうひとつ、図書館が重要なメタファーとして登場する。『ワンダーランド』では、夢(記憶)の記録された一角獣の頭骨を蔵書とする図書館が登場したが、本書でも図書館が重要な意味を持つ。

「僕らはみんな、いろんな大事なものをうしないつづける・・・大事な機会や可能性や、取りかえしのつかない感情。それが生きることのひとつの意味だ。でも僕らの頭の中には、多分頭の中だと思うんだけど、そういうものを記憶としてとどめておくための小さな部屋がある。きっとこの図書館の書架みたいな部屋だろう。そして僕らは自分の心の正確なありかを知るために、その部屋のための検索カードをつくりつづけなくてはならない。掃除をしたり、空気を入れ換えたり、花の水をかえたりすることも必要だ。言い換えるなら、君は永遠に君自身の図書館の中で生きていくことになる。」

最後に「大島さん」がカフカに告げる
「世界はメタファーだ、田村カフカ君」

 当分、村上春樹は読まないでおこうと思っていたが、『やがて哀しき外国語』に続いて本年3冊目となってしまった。新幹線で気軽に読める本となると(気軽に読むとはおこがましい気もするが)、今のところこの作者が一番かもしれない。当分やめられそうにもない。

寝食を惜しんで読んだ →☆☆☆☆☆


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