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読書 垣根涼介 ワイルド・ソウル [日記(2011)]

ワイルド・ソウル〈上〉 (幻冬舎文庫)
 「ジェノサイド」を貸してくれた友人に、何か面白いものをと言って貸して貰ったのがコレです。なんと、大藪春彦賞、吉川英治文学賞、日本推理作家協会賞をトリプル受賞超弩級のクライムノベル...。どちらかと言うと、大藪春彦と船戸与一を足して2で割ったような小説です。何処が超弩級かというと、地理的広がりは南米アマゾンから日本まで、主人公達が相手にする敵はニッポン国。

 南米移民そのものは戦前からあったわけですが、本書で取り上げられているのは戦後の移民です。ベビーブームで膨れあがった人工のはけ口として、国策として推進された移民です。移民、植民というと連想するのが満蒙開拓移民。日本の傀儡国家満州国の建国により、国策として移民が推進され、20万人とも30万人ともいわれる移民が海を渡り、敗戦とともに満州の野に遺棄されました。
 この満州移民にも似た国家の欺瞞に、南米移民の2世達が、父母鎮魂の鉄槌を振り下ろします。 
 
 小説の前半で描かれるのは、入植地は整地され灌漑設備や住居が整っている、耕作によって豊かな実りが保証されるという外務省が描くバラ色の未来図に乗せられて移住した移民達の悲劇です。彼らを待っていたのは、未開のジャングル。一握りの成功者の影で、不毛のジャングルで病に斃れ、帰るに帰れずブラジル社会の最下層へ落ちていった人々の物語が綴られます。

 、物語の後半は、この辛酸をバネに、国家によって遺棄された移民の遺子達が、当時移民政策を推し進めた外務省に復讐する物語です。外務省に機関銃で襲撃をかけ、当時の関係者を誘拐拉致、マスコミを抱き込んでニッポン国に謝罪を迫ります。

 痛快ですが、それだけ。「ジェノサイド」にもドンパチや冒険譚はありましたが、「ジェノサイド」が面白かったのは人類の進化と新人類の誕生という壮大な未来が示されたことでしょう。ドンパチや冒険譚だけでは山田風太郎賞もこのミス&週刊文春ベスト1もなかったと思われます。「ワイルド・ソウル」は前半のブラジルがよかっただけに、残念。
 ブラジルではたくさんの人が死にますが、後半の復讐劇で死人はひとりも出ません。このあたりが作家の見識でしょうね。

タグ:読書
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