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浅田次郎 シェエラザード 上下 [日記(2015)]

シェエラザード(上) (講談社文庫)
 1945年4月、台湾沖で沈没した貨客船「阿波丸事件」をモデルとした歴史ミステリです。阿波丸は、赤十字の要請で南方の捕虜収容所へ救援物資を運びます。交戦中の連合国と日本が、赤十字の要請とは言え、こうした人道上の措置を取った「美談」があったのようです。謂わば赤十字のチャーター船ですから、航行の安全は保証されていましたが、物資を運び終えての帰路、阿波丸は台湾沖で米軍の潜水艦の攻撃を受け、帰国の日本人2000名を乗せて沈没しています。安全を保証された阿波丸が何故攻撃されて沈没したのか?、この謎が『シェエラザード』のドラマです。

 町金融の軽部と日比野に、昭和二十年の春に二千人の命を乗せて南シナ海に沈んだ弥勒丸の引き上げのため100億円の融資の申し込みが来ます。話を持ち込んだのは台湾人・宋英明。弥勒丸には2兆円の金塊が積み込まれていたというわけです。町金融と100億円の融資は釣り合いませんが、軽部のバックにいるその筋の大親分・共道会の山岸を見越しての話です。宋はこの話を、保守系の議員秘書と大手商社の財務部長にも持ち込んでいます。宋は、弥勒丸の引き上げを政、財、裏社会に持ち込んだことになります。

 軽部は都市銀行の支店長、日比野は自衛隊の二等陸尉。暴力団の金融を、金融と戦闘のプロが仕切っているという構図です。軽部は恋人の新聞記者・律子に弥勒丸の調査を依頼し、律子は弥勒丸引き上げに人生を賭けて新聞社を退職します。半世紀前に沈没した弥勒丸に、この「元」と付く面々が関わることがこの小説のkeyです。半世紀前に沈没した弥勒丸の過去に関わることで、登場人物の過去が洗われ現在が照射されるという構図が『シェエラザード』です。

 宋英明が働きかけた政、財、裏社会が動きだし、共道会の山岸、元大手商社会長の篠原、保守派議員高松によって、全国船舶連合会会長、小笠原に話が行きます。篠原は元大本栄参謀、小笠原は 「内閣総力戦研究所」を経て昭南特務機関長という過去を持っています。高松は、これも元海軍将校で、戦後警察予備隊を経て海自幕僚長まで務めた人物。戦中戦後の歴史を担ってきた人物が登場し、弥勒丸の謎が次第に明らかになります。弥勒丸は何故二兆円の金塊を積んでいたのか?、連合軍から安全を保証された弥勒丸が何故沈んだのか?。多彩な登場人物の過去と現在が交差し、北緯25度26分01秒、東経120度08分01秒、南シナ海の海底から排水量17,000tの弥勒丸が静かに浮上します。

 相変わらず、浅田節は快調です。 


タグ:読書
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