SSブログ

百田尚樹 海賊とよばれた男 [日記(2016)]

海賊とよばれた男(上) (講談社文庫)海賊とよばれた男(下) (講談社文庫)
 民族資本の石油元売り会社、出光興産の創業者・出光佐三をモデルとした産業人・国岡鐵造の一代記です。『永遠の0』の百田尚樹ですから、とにかく「熱い」小説です。

 社員を家族と考える鐵造の国岡商店(出光興産)には出勤簿、定年がなく馘首もありません。出征した兵士にも給与を払い続け、敗戦によって資産のすべてを失い、借金と千名近い社員をかかえた鐵造は、社員こそが資産であるという信念で、ひとりの馘も切らず、ラジオ修理などの副業で社員を支え続けます。

 少し眉にツバを付けて読みましたが、小説とはいえ亡くなって35年の実在の人物ですからほぼ事実なのでしょう。明治40年の東北旅行で秋田の油田を見学してより石油に取りつかれ、以来70数年、石油一筋の反骨の人生が描かれます。
 明治41年の神戸高商の卒論(現存らしい)で、当時花形の石炭産業の衰退を予見し、政府による統制経済を批判しま。23歳の時、陸軍やGHQを相手に弧塁を守った出光佐三の原型が出来上がってことになります。もうひとつ、「大地域小売業」の発想があります。幾つもの問屋を経由して商品を消費者に届けるのではなく、自前の店舗で製造から直接消費者に届けるという、今では当たり前のダイレクトマーケティングを明治41年に目指していたというのですから恐れ入ります。

 作者が百田尚樹で舞台が「石油」ですから、太平洋戦争はアメリカに石油を止められことによって起こり、ミッドウェーもガダルカナルの大敗も石油の枯渇が原因ということになっています(日中戦争はパスです)。この戦略物資でもある石油を、外資(メジャー)の支配をはね除け日本人の手によって確保することが悲願となり、戦後の出光佐三の活躍となります。百田尚樹が本書を執筆した動機もここにあり、百田は、繰り返し主人公国岡鐵造の無私と愛国心を描きます。

 この無私と愛国心が遺憾なく発揮されるのが、イランから石油を運んだ「日章丸事件」(1953)です。
 メジャーと政府によって石油(ガソリン)の供給を絶たれつつあった国岡商店は、イギリスから独立を果たし油田と製油施設の国有化を断行したイランから石油の輸入を企てます。イギリスは油田の所有権を主張し、イランから石油を積み出したタンカーを拿捕するという緊迫した状況下で、鐵造は自社のタンカー日彰丸で日本に石油を運びます。
 事が公になれば妨害が起こることは必至。社員の渡航から資金の調達、信用状の取得まで極秘裏に進め、日彰丸はイギリス海軍を降りきって石油を日本に運ぶわけです。運んだら運んだで、今度は英企業との法廷闘争が待っているという具合で、なかなか手に汗を握る企業ドキュメントです。百田尚樹の持ち上げる田岡鐵造の愛国心や経営哲学より、こちらの方が面白いです。

 メジャーの包囲を潜り抜け、政府の護送船団方式に楯突く出光佐三の一代記、上下二巻を二日で読んでしまいました。緑陰図書としてお薦めです。

 出光興産と昭和シェルの合併が取り沙汰されています。ガソリンの需要低迷がその一因だそうですが、「石油の一滴は血の一滴」と、石油の確保に奔走した出光佐三の一生を読まされると、時代の変遷を感じざるを得ません。

タグ:読書
nice!(12)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 12

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0