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映画 シャトーブリアンからの手紙(2011仏独) [日記(2016)]

シャトーブリアンからの手紙 [DVD]
 『ブリキの太鼓 』で有名なフォルカー・シュレンドルフの監督作品です。この映画の主人公ギィ・モケ(Guy Môquet)はフランスでは有名な人物のようです。ギィは17歳でナチスに銃殺され、その遺書が戦後公開され愛国者の象徴になったものと思われます。性格は違いますが、『きけわだつみのこえ』が読み継がれていることと似ています。
 フランスのナショナリズムの映画かというとそうでもなく、だいいち監督のフォルカー・シュレンドルフはドイツ人。ドイツ人が、若くして散った仏レジスタンス?を映画にしたという不可思議に、何か隠されていそうです。

 ヴィシー政権下の仏ナントで、ナチスの将校がレジスタンスに暗殺されます。独兵士1人が殺されると、フランス人が3人処刑されるという報復が行われていたようです。これを知ったヒトラーは、フランス人150人の処刑を命じてきたことから物語は始まります。
 ナチスというと総てが冷酷無比の殺人狂というわけではなく、150人という数字を前にとまどう独軍司令官もいるわけで、ヒトラーの命令ですから握りつぶすわけにもいかず、150人の選定をフランスの役人に押し付けます。おまけに、部下に事の顛末の記録を命じます。しかも文学的表現で記録しろというのです。この部下が、後に小説家・思想家として有名になるエルンスト・ユンガー。ユンガーが登場するあたりがフォルカー・シュレンドルフの仕掛けなのでしょう。登場だけでは足りないので、こんな会話まで

行動(ヒトラー暗殺)するより観察者のほうがいい(ユンガー)
言い換えれば 覗き魔?(女性)

 ドイツの知識人も「覗き魔」に過ぎなかったという、フォルカー・シュレンドルフの皮肉なんでしょう。
 150人の選定を任された役人も、最初は断りますが命令には逆らえず選定に入ります。この選定に協力するのがかつての共産主義者のフランス人。占領軍の命令で処刑する同胞を選び出し、転向者の共産主義者かつての同志を選ぶという、ドイツ軍占領下のフランスの姿を垣間見る思いです。で、選ばれたのがシャトーブリアンにある収容所の共産主義者、組合活動家、ユダヤ人等政治犯27人。一般市民を処刑するより、反政府主義者を処刑するほうがまだしも良心の痛みが少ない?、というわけです。
 この27人の中の最年少がギィ・モケ。共産主義者の父親を持ち、映画館でビラを撒いたため政治犯として収容所に入れられています。将校暗殺犯のひとりが若い青年であり、年格好の似た17歳のギィが選ばれたわけです。27人は、フランス警備兵の温情によって家族に遺書を書くことを許され、このギィの遺書が戦後流布することによってギィは伝説となったようです。

 面白いのは、ドイツの監督がフランスのレジスタンスを映画化したことです。しかも、単にレジスタンスを英雄視するのではなく、150人もの処刑に戸惑うドイツ軍司令官、虐殺の冷酷な観察者となるドイツ知識人、同胞を死に追いやる元フランス共産主義者、占領軍の前には無力なフランス人官僚、フランス軍、とシャトーブリアンの虐殺が相対的(多角的)に描かれていることです。ドラマ性に乏しく決して面白いとは言えないこの映画の、唯一の最大の意味でしょう。

 知らない俳優ばかりだと思っていたのですが、ユンガーを演じたウルリッヒ・マテスは、『ヒトラー 〜最期の12日間〜』のゲッペルス、『悪童日記 』の父親、神父のジャン=ピエール・ダルッサンは『画家と庭師とカンパーニュ』の庭師、組合活動家のマルク・バルベは『薬指の標本』の標本技師でした。いずれも特異な相貌で記憶に残る俳優です。

監督:フォルカー・シュレンドルフ
出演:レオ=ポール・サルマン マルク・バルベ ウルリッヒ・マテス ジャン=ピエール・ダルッサン

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