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お手軽、簡単、読書感想文 夏目漱石 こころ [日記(2017)]

こころ (新潮文庫) こころ  夏休みも残り少なくなり、この時期には当blogの「読書感想文」へのアクセスが増えます。少し時期遅れですが、久々に、「お手軽、簡単、読書感想文」を一編加えます。取り上げるのは、読書感想文の定番?、夏目漱石の「こころ」。多くの高校の教科書に採用された、日本文学の名作です。


 『こころ』を、文豪・夏目漱石の文学作品と思って読むのではなく、謎解き、ミステリと考えると、面白く読めます。青空文庫で読めますから投資ゼロです(笑。『こころ』は、「上・先生と私」「中・両親と私」「下・先生と遺書」の三部から成り立っています。

 「上」では、私と先生という謎の人との交遊が描かれ、「中」では帰省した私と当時の平均的庶民である両親と兄が登場し、先生から私に遺書が届きます。「下」になって、「上」で謎であった先生の過去が一挙に明らかにされます。謎が提出される「上」とその謎解き「下」は繋がっていますが、地方の中産階級の私の家族が登場する「中」にはどこか違和感があります。高校の教科書には普通「下」が採用されます。お嬢さんを巡り、親友のKを自殺に追い込んだ先生の自裁(モラル)の物語として採用されていると思われます。果たしてそうか?。「中」を手がかりに感想文を書いてみます。

以下感想文です。
 『こころ』は、「一見」、下宿先のお嬢さんを巡る先生と先生が自殺に追いやった親友Kの三角関係の物語です。先生はKを出し抜いてお嬢さんと結婚し、先生に裏切られたKは自殺します。Kの自殺を負い目として生きてきた先生は、明治天皇の崩御と乃木大将の殉死に引きずられるように自殺しますから、テーマはモラル?。

 小説は、私と暗い過去を引きずる先生が知り合う「上・先生と私」、帰省した私と両親を描く「中・両親と私」、先生の過去が明らかになる「下・先生と遺書」の三部構成です。「上」で提出される謎が、「下」で解き明かされるミステリー仕立てになっています。となると「中」は何のために存在するのか?。

 私は、父親が病に倒れたために帰郷します。息子の大学卒業を喜ぶ父親、息子の就職を気にかける母親、そして父親の病状を気遣う私の日常が描かれます。父親は
「しかし卒業した以上は、少なくとも独立してやって行ってくれなくっちゃこっちも困る。人からあなたの所のご二男は、大学を卒業なすって何をしてお出ですかと聞かれた時に返事ができないようじゃ、おれも肩身が狭いから」
母親は、
「お前のよく先生先生という方にでもお願いしたら好いじゃないか。こんな時こそ」
兄は兄で、無為徒食の先生について、
「イゴイストはいけないね。何もしないで生きていようというのは横着な了簡だからね。人は自分のもっている才能をできるだけ働かせなくっちゃ?だ」
 これが現在も変わらない世間の常識というものでしょう。先生は家の財産の利息で生活する金利生活者ですから、これもごくまっとうな意見。私は、東京での先生との交流とは異る「世間の常識」と「肉親の情」に反発を覚えるのかというとそうでもなく、母親を安心させるために先生に就職斡旋の手紙を書きます。さりとて先生を忘れたわけではなく、先生と両親の間で揺れ動くといった宙ぶらりんな状況です。
 そんな中、先生の長い手紙、遺書が届きます。

 謎に満ちた「先生と私」、自殺に至る暗い物語「先生と遺書」に比べると、おおらかでありふれた何処にでもある日常です。登場する両親も兄も、ごく常識的な庶民です。大学を卒業したのだから、就職してまっとうな生活をしないといけないと諭され、私は先生に就職斡旋を依頼する手紙さえ書いています。

「先生と私」→「両親と私」→「先生と遺書」と順を追って読むと、小説の流れの中で「両親と私」は異質です。『こころ』が先生とKとお嬢さんの物語とすれば、「両親と私」は無くてもいいわけです。先生の謎、謎解きと自殺の間に、私の両親と故郷のエピソードが挟まれている意味とは何か?。
 先生とKは両親と故郷を失った存在で、私は両親と故郷を持つ存在です。この構成から漱石の意図したものは、観念(思想)に生きる人間(知識人)と肉親・故郷という土俗的なもに囲まれて生きる庶民の対比だと思われます。先生とKは自殺しますから、知識人は庶民に敗北したことになります。「両親と私」のラストで、私は先生の暗い過去は無用だと断じています。これは「先生と遺書」の否定であり先生の否定です。とすれば、なぜ私は危篤の父を残してまで汽車に飛び乗ったのか?。『こころ』は謎に満ちた物語です。

 これで1300字程度です。
 当blogの『こころ』 


タグ:読書
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