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映画 キラー・インサイド・ミー(2010米) [日記(2017)]

キラー・インサイド・ミー [DVD]  テキサスの田舎町の保安官助手ルー(ケイシー・アフレックス)29歳を主人公としたクライム・サスペンスです。

 映画のkeyは、背景となる1950年代とテキサス。第二次世界大戦で戦場とならなかったアメリカは、ヨーロッパの復興に伴い未曾有の好況を享受し、住宅、自動車、高速道路、家電製品、ファストフードなどに代表されるアメリカ文化が花開く時代です。もうひとつのテキサス。映画の中で”女性には奥さんと敬意を払い、紳士でなければ男じゃない”という保守色の強い風土。おまけにルーが保安官助手を勤めるのは、”誰もが顔見知りで困る”ほどの小さな町で、治安も良好。ルーは、町で唯一の医者のひとり息子。安定したアメリカ社会の小さな町で、評判のいいな29歳の保安官助手の『内なる殺人者』の話です。50年代のアメリカン・ポップスに乗ってルーの殺人が進行します。

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 ルーは、保安官の指示で売春婦のジョイス(ジェシカ・アルバ)を町から追い出すために、会いに行きます。ルーが警官だと知ったジョイスが殴りかかってきたことで、ルーの内部に火がつきます。ジョイスの尻を剥きベルトで打ち据え、これがジョイスを刺激し、ふたりは保安官助手と売春婦を越えた男女の関係になってしまいます。サドとマゾ?。後に明かされますが、ルーは、少年時代に5歳の少女に同様の悪戯をした前科があり、(義理の)兄が身代わりとなって逮捕されるという過去があります。おまけに、この兄は事故を装って町の有力者に殺されたらしいという因縁まであります。静かな田舎町も一皮めくれば、ということでしょう。ルーには、結婚を約束したエイミー(ケイト・ハドソン)という恋人があり(おまけにエイミーは教師)、所謂「女に不自由はしていない」にも関わらず、ルーはジョイスにのめり込みます。

 息子とジョイスの関係を金で解決してくれという話が、ルーに舞い込みます。頼んだのは、兄を殺したという噂のある町の有力者。ルーはこの話に乗り、駆け落ちを迫るジョイスとの関係を清算し、兄の復讐のために、ジョイスとこの息子を殺します。息子がジョイスに暴力をふるい、ジョイスが息子を射殺するという筋書きの殺人計画。不思議なことに、切羽詰まった挙げ句の殺人という切実さは全くありません。売春婦に駆け落ちを迫られたことが殺人の動機となるとは考えられず、兄が殺されたことも単なる伝聞に過ぎずこれも動機としては不十分。ルーの「内なる殺人者」が突然目覚めたという他はありません。

 ジョイスを素手で殴り殺すのですが、これが凄まじいの一言。もう少しスマートでキレイな?殺し方もあろうと思うのですが、ただただ執拗に殴るだけの撲殺(もっともこの撲殺は結末の伏線)。不思議なことは、ルーがジョイスに謝り、愛しているとさえ言いながら殴り続けることです。ルーにとっては、ジョイスを愛していることとジョイスを殺すことが矛盾なく同居しているようです。想像するに、ルーが愛しているのはジョイスではなく、テキサスの田舎町の安穏な保安官助手の生活ではないかと思われます。これは、恋人のエイミーを撲殺する第三の殺人でも繰り返されます。エイミーもまた、駆け落ちして他所の町で新しい生活を始めようと迫ったためルーに殺されます。ルーにとっては、テキサスの田舎町という「揺りかご」から連れ出そうとする人間を排除しただけのことなのです。これはルーという人間の保守性ではなく、揺りかごにこだわる幼児性に他なりません。要は自己中。
 この幼児性は、殺人計画のズサンさにも現れていいます。ジョイスを殺した後、ジョイスの拳銃で息子を撃ち殺し、指紋を拭き取った拳銃をジョイスに握らせます。これで相討ちとは誰も考えません。ルーは、刑務所ではなく精神病院に収容されます。揺りかごに安住できない絶体絶命のラストで、ルーの幼児性は遺憾なく発揮されます。
 描かれたのは、「内なる殺人者」ではなく、アメリカ文明に存在する「内なる幼児性」だったのだと思われます。アメリカ・ファースト、都民ファーストと世界は幼児性をあらわにしだした、という思いがします。
 評判のいい好人物の保安官助手と残虐な殺人者が同居するルーというキャラクターを、ケイシー・アフレックが見事に演じます。お薦めです。
監督:マイケル・ウィンターボトム
出演:ケイシー・アフレック ジェシカ・アルバ ケイト・ハドソン

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