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映画 アノマリサ(2005米) [日記 (2020)]

アノマリサ [DVD]  原題、Anomalisa。『マルコヴィッチの穴』の脚本チャーリー・カウフマンのアニメですから、ひとクセもふたクセもあります(アニメにしてR15指定)。ストップモーション・アニメで、人形を1コマずつ動かして撮影するアニメだそうです。人形が動くわけですから、作画のアニメとは雰囲気が違います。どっちかというと、ちょっと怖い。

 主人公は中年のビジネスコンサルタントのマイケル。マイケルは、誰を見ても同じ顔に見え、同じ声が聞こえるという精神疾患をもっています。そんなことが現実にあり得るのかとおもうのですが、あるらしい。カプグラ症候群、ソジーの錯覚というそうです。姿形が異なり声が異なるからAさんはAさんと認識できるわけですが、周りの他人が全員Aさんであるという世界の”お話”です。この設定を映画化するのに、人形劇のアニメは最適。登場人物を同じ顔にするのは簡単、声優も『アニマリサ』では3人しか登場しません。もっとも、現在のCG技術であれば実写でも可能なんでしょうが。

 この個性というものが認識できない、他人を特定できない(しにくい)世界で、マイケルは独自の顔と声を持つ女性リサと出会います。映画ではあらゆる声がトム・ヌーナンで統一されていますから、リサの声(ジェニファー・ジェイソン・リー)は新鮮です。リサは自分で言うように何の取り柄もない平凡な女性過ぎません。anomaly(異常、変則的)な世界に、平凡でノーマルなLisaが登場することで、anomaly + lisa = Anomalisaの世界が現れます。不条理とかいう難しい話ではなく、設定の妙。異常な世界に異常でないもの(正常)が現れればどうなるか?という話です。問題はどうオチを付けるかです。
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 同じ顔同じ声の氾濫する世界で、リサだけが個性を持ち女性の声を出すわけですから、マイケルにとってリサは唯一女性です(妻もいるわけですが、彼女も没個性の同じ顔)。マイケルはたちまちリサと恋に落ち、ホテルの部屋でなるようになります。人形同士のそれは変に生々しい。その夜、夢の中にホテルの支配人が現れ、マイケルの情事を非難し、リサとだけはやめろと迫ります。この支配人はマイケルの深層にあるモラルでしょうか。一夜明けて、マイケルはリサに結婚を申し込みます。「ソジーの錯覚」の上にリサという「錯覚」が乗っているという複雑な構造です。ところが、向かい合って朝食を取るシーンです、リサはフォークを噛み口にものを入れて喋り、マイケルはその行儀悪さを咎めます。途端、リサの声は徐々に単調な没個性的な声変わってゆき、百年の恋も冷めてゆきます。リサという存在もまた錯覚に過ぎなかったというこでしょう。

 結局リサとの恋は一夜限りの恋として終わり、家に帰ればそこには同じ顔の妻と子、友人が待っていて、マイケルのカプグラ症候群の「錯覚」の日常が続くわけです。身につまされます(笑。それではあまりに可愛そうだと思ったのか、ラストでリサを登場させ、「あなたと過ごせてよかった、いつかまた会えるいいわね」と言わせます。
 チャーリー・カウフマンの奇才に脱帽!、という映画です。

監督・脚本:チャーリー・カウフマン
出演(声):デヴィッド・シューリス ジェニファー・ジェイソン・リー  トム・ヌーナン

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