金完燮 親日派のための弁明 2 ② 独立軍、植民地近代化論 (扶桑社2004)

　続きです。
独立軍の正体
　三一運動の後、独立運動は総督府の統治が十分に及ばない満州東部の間島の独立軍が担うことになります。満州の抗日パルチザンから出た金日成が北朝鮮を建国しますから、金日成の正体かと期待したのですが、「馬賊」の話でしたw。
　著者によると

「満州の独立軍」というものが存在したのか、疑問である。彼らは当時、治安不在だった満州地域で組織された朝鮮人馬賊団であり、同胞の財産を奪い、殺人や拉致、強姦、放火など、治安を乱し犯罪を行った、盗賊団のような存在にすぎなかったと思われる。その行為においては中国人馬賊団との差はなく、ただ一つ、独立運動を語ったということだけが違う。

とミモフタモもありません。彼らは、匪賊、兵匪、土匪、共匪(共産ゲリラ)、総督府の呼称では鮮匪など様々な名前で呼ばれたようです。「大韓民国臨時政府」配下の軍隊なら資料が残っていそうなものですが、相手が賊ですから資料が乏しいようで、著者が目を付けたのが1920～1940年の「朝鮮日報」のデータベース。独立団、馬賊、匪賊に関連した記事が395回登場します。例えば

〈検索：抗日〉
(1921年)
3/9 通化住民の現状。排日朝鮮人と馬賊らの跋扈により十里行くにも警官と同行
3/31 寛甸県で農民八名銃殺。朝鮮独立団員が来襲、農民を銃殺。五十名の独立団が朝鮮に侵入計画中
3/31 安岳邑に独立団突入。六穴砲を向けて百五十ファン強奪
5/5 旅行中の日本人を狙撃。おそらく排日朝鮮人かシナ馬賊のしわざ
5/6 独立団の軍資金募集と称してあちこちで強奪　･･･後略
〈検索：馬賊〉
1920年12/17 十九道溝の昌興商会主人・崔鎮國、馬賊に銃殺される
1921年1/29 国境馬賊団の跳梁。民家七戸を焼却、女子四名を人質、良民八名を惨殺、金一万一千ウォン強奪して逃走
1922年5/8通化県に馬賊猖蹶。馬賊首領の柳青山とその部下が通化県七道溝付近に出没し人民の被害が激しい
1922年7/5 官兵装を着た馬賊団の横行。八道溝で富豪六名を襲撃して人質とする　･･･後略

といった記事がズラリと並びます。独立軍と名乗り(時には名乗らず)朝鮮人の武装集団が同族から軍資金、義援金と称して金品を強奪し、殺害、拉致を繰り返しています。記事に載らなかった犯行も含めると膨大な数になりそうです。こういう連中が独立後に帰国して「抗日戦士」、「独立軍」を名乗り、日本と戦って独立を勝ち取ったという歴史を望む政府は、匪賊、馬賊を「独立軍」と遇したのです。なかにはその名に値する独立軍もいたにしてもです。イザベラ・バードは『朝鮮紀行』で、沿海州の朝鮮人は両班の搾取を受けることなく裕福だった、と書いていますから、略奪する金品食料が豊富だったのかも知れません。
　「普天堡の戦い」という共産党を名乗る馬賊事件もあります。

朴金喆の率いる祖国光復会（朝鮮語版）の一隊（のちの甲山派）の2隊が約300戸ある普天堡村という朝鮮人が大多数を占める村の警察署の襲撃・放火後に無差別に金品を強奪し、役場や消防会館、郵便局、小学校などに略奪・放火を行った赤色テロ事件である。警察官だけでなく、幼児、料理店経営者を含む一般人が死傷したが、日本に朝鮮人共産主義者らが勝利したとして神話として美化されている。(wikipedia)

朴金喆は後に北朝鮮の党書記などの要職を務めていますから、共産党系の抗日パルチザンも馬賊、匪賊をやっていたわけです。金日成はよもやとは思いますが...。

韓国の学者は、一九一九年の万歳運動以後、満州と沿海州地域に西路軍 政署、北路軍政署、光復軍、韓国独立軍、大韓独立軍、正義府、参議府、新民府など数多くの独立運動機関ができて、抗日武装闘争を敢行したかのように主張している。しかし、その実情をみると、彼らの実態は独立運動に事寄せて同胞から略奪を行った、朝鮮人馬賊団だったのである。

これが、独立軍の正体だといいます。さらに、

　日帝時代、朝鮮の独立運動家は主に海外に滞留し、同胞たちから募金を集めたり「強奪」したりしながら組織を維持した。その中には、分離独立だけを朝鮮民族の至高の善と信じる献身的な人もいただろうが、大部分は独立運動を名分に無為徒食し、同胞の財産を集団略奪したルンペン集団である。海外の朝鮮人密集地域で、日本軍に追われているということを理由にいつでも武器をもち集団略奪ができたため、朝鮮人であっても馬賊集団と独立軍を区別するのは難しかった。事実、満州と沿海州、中国などの地に、本当の意味での独立軍といえる集団はほとんど存在しなかったと思われる。
　東北アジアをさすらっていたこのルンペン集団は、終戦後、集団帰国して政治に飛び込んだが、米国を背負った李承晩に押し出され、政権掌握に失敗した。李承晩もやはり朝鮮王朝に忠誠を誓い、長い間、独立運動をしていたため、日本と親日派に対する敵限心は誰にも負けなかった。このため、戦後の韓国では誰もが日帝時代に総督府に抵抗したとか、少なくとも協調はしなかったとか、主張せざるをえなかった。このようなムードが次第に強まり、反日は韓国の基本統治イデオロギーになったのである。

そこまで言うか、です。

穂積産業革命

　日帝時代に朝鮮の資本主義化が著しく進んだ状況は、『反日種族主義』や『韓国併合への道』にも統計を使って詳しく述べられています。「穂積産業革命」は、ひとりの総督府の日本人官僚が、朝鮮の資本主義化に如何に関わったかという話です。

　穂積真六郎は1914年に朝鮮総督府の官僚となります。内地からの出向ではなく、自ら朝鮮総督府を選択したという土着型官僚というところに特徴があります。穂積は、財務部・理財課を振り出しに1929年に外事課長を経て1932年に殖産局長となり、朝鮮に近代産業を誘致し、(著者の言う)産業革命を起こします。

穂積は十年間、朝鮮の全産業分野を組織、計画、管理監督した。彼の在任期間が、朝鮮で本格的な産業革命が起き、伝統的な農業社会から貿易と鉱工業中心の本格的な資本主義社会に変化した期間であったことに注目すべきだ。つまり、一九三〇年代の朝鮮の劇的な産業革命は、穂積真六郎という有能で献身的な官僚がいたからこそ可能だったのである。

　朝鮮の産業構造は、1920年代末までは農業が総生産の80パーセント以上を占める、典型的な農業国。1930年代の「穂積産業革命」を経て、1943年になると、農業と工業生産の比率は34%対38%に逆転し工業国へと変貌を遂げます。この期間の工業生産額は、1930年3億円→1937年8.7億円→1943年18.6億円と成長し、農業生産額も1910年3億円→1930年8億円→1943年16.4億円と順調に増加します。年間成長率は、1930年か～1937年が年平均約17%、1937年～1943年は年平均約15%に及びます(旧日本植民地経済統計)。1929年に始まった世界恐慌の中ですから、驚くべき成長です。

　朝鮮の産業構造の変革と成長は、穂積たち朝鮮総督府がなした鉱工業の日本からの移植によってもたらされます。中核をなしたのは、興南地区の化学コンビナート。

日窒(日本窒素肥料)は興南工場建設(1929年着工、30年操業開始)とともに、赴戦江と長津江に水力発電所を建設した。興南地域は、豊富で安い電力、天恵の港湾施設、日本海を挟んだ地理的長所などが相乗効果をなし、次第に周辺には大規模電気化学コンビナートが造成されていった。その結果、朝窒(朝鮮窒素肥料)は朝鮮の化学肥料市場をほぼ独占することになった。輸出も始め、日本の硫酸アンモニウム(硫安)生産量の三割以上を占有することになる。以後、興南工場は発展を続け朝鮮工業化の象徴的な地域となった。

　コンビナートが生み出す化学肥料と農業生産の増大が両輪となって、朝鮮の成長を促したことが理解できます。農業生産の増大は、総督府が行った土地調査事業による自作農の増加が寄与したと思われます。

　化学肥料の生産に不可欠な電力は、赴戦江第一発電所(13万kW)、長津江第一発電所(14.4万kW)、長津江第二発電所(11.2万kW)、虚川江第一発電所(14.5万kW)の建設によって賄われます。当時日本最大の蟹寺発電所が4.5万kWですからその規模がいかに大きかったか。また、1937年には水豊発電所(60万kW)の建設が始まります(1944年完成)。発電量は、ニューディール政策の一環としてアメリカ政府の公共事業TVAよりも大きいそうです。この「鴨緑江の奇跡」と呼ばれる一大プロジェクトは、本書を読んで初めて知りました。「漢江の奇跡」が霞む規模ですw。

　このように、世界最高水準の豊富で安い電力供給が始まると、内地の重化学工業資本は競って朝鮮北東部地域に進出しはじめた。この時期に朝鮮に進出した大資本には、日鉄(日本製鉄株式会社)の兼二浦製鉄所、三菱の清 津製鉄所、日本高周波重工業株式会社の城津工場、朝鮮理研金属株式会社仁 川 工場、朝鮮マグネサイト開発株式会社、三陸 開発株式会社の寧 越と三炭 炭田などがある。

　朝鮮の近代化は、こうした日韓併合時代の上に築かれたことになります。「植民地近代化論」が論議になりにくいのは、こうした施設が北朝鮮に集中していることよるのかも知れません。朝鮮戦争で施設がどれほど破壊されたのかは分かりませんが、1960年代前半に北朝鮮が、農業、工業、電力、教育などあらゆる分野で韓国を凌いでいたことは、日帝の遺産と関係があるのかも知れません。

　教科書では習わない歴史です。面白いので続きます。

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