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吉田修一 女たちは二度遊ぶ(2006角川文庫) [日記 (2021)]

女たちは二度遊ぶ (角川文庫)  久々に小説、吉田修一は初見。『野性時代』2004年3月号~2005年7月号に発表されものを集めた短編集です。連載時のタイトルが「日本の十一人の美しい女たち」とあるように、11組の男女の出会いと別れを描いた小説です。登場する女性たちは、大学生、家事手伝い、パチンコ店店員、看護師と雑多で、男たちも、作者を想像させる学生、フリーター、サラリーマン。男が、女との苦い?思い出を回想するという小説で、いずれも十数ページの短いもの。例えば『どしゃぶりの女(2004年9月号)』。

 友人の紹介で出会った女は、どしゃぶりの雨の続く3日間「ぼく」の部屋に居続けます。名前は「ユカ」、由香なのか結花なのか「ゆか」なのかも不明。

本当になんにもしない女だった。炊事、洗濯、掃除はおろか、こちらが注意しないと、三日も風呂に入らないほどだった。

 女は部屋を一歩も出ず男の帰りを待ち、男の運ぶコンビニ弁当を食べて生き長らえているという生活。毎晩、女のために弁当を買って帰ることが義務となり、義務から奉仕、奉仕からいたわりに変わっていきます。

ぼくは期待していたのだと思う。どんなことがあっても、じっと部屋でぼくの帰りだけを待っているユカに、期待し、何かを求めたのだと思う。

 コンビニ弁当を運ばなかったらユカはどうするのか、今夜弁当を買って帰らなければ、本当に彼女は明日まで何も食べずに過ごすのか確かめたくなったボクは外泊します。帰ると、何と彼女は1日何も食べずボクの運ぶコンビニ弁当を待っていたのです。

最後にぼくがユカを試した夜、外は雷混じりのどしゃぶりだった。一日、二日といつものようにバイト先の店に泊まり、これが正真正銘最後だと言い聞かせて、三日目の夜も帰らなかった。ぼくには根拠のない自信があった。ユカはいる。どんなに腹が減っていようと、違いなくぼくの帰りを待っている、と。四日目の朝、アパートに戻った。ドアには鍵がかかっていなかった。嫌な予感がして、慌てて中に入った。そこにユカの姿はなかった。布団はきれいにたたまれ、三ヶ月間ずっと吊るされたままだった彼女の洋服もなくなっていた。

 雄が雌に食物を運ぶことは人間だけでなく動物だってやります。雄が雌の元に食料を運ぶ関係で、雌がふと居なくなるのは人間だけ。ユカが何故消えたのかは語られません。語りたかったのは、残されたボクの喪失感でしょう。そうした男女の出会いと別離が11話語られます。
  読者は、11組の男女の出会いと別れを読みながら自らが人生で出会った一人ひとりを否応なく回想してしまう、そんな短編集です。

・どしゃぶりの女(2004年9月号)
・殺したい女(2005年4月号)
・自己破産の女(2005年6月号)
・泣かない女(2005年2月号)
・平日公休の女(2005年3月号)
・公衆電話の女(2005年1月号)
・十一人目の女(2005年7月号)
・夢の女(2005年5月号)
・CMの女(2004年10月号)
・ゴシップ雑誌を読む女(2004年3月号)
・最初の妻(2004年12月号)

タグ:読書
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