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椎名 誠 漂流者は何を食べていたか(2021新潮選書)  [日記 (2022)]

漂流者は何を食べていたか (新潮選書)無人島に生きる十六人
大西洋漂流76日間 (ハヤカワ文庫NF)
 著者は、少年時代に『十五少年漂流記』を読んで「漂流記マニア」になったと云います。『十五少年漂流記』を胸劣らせて読んだ経験を持つ人は多いと思います。後年『おろしあ国酔夢譚』、『コン・ティキ号探検記』、吉村昭の『漂流』等を読みましたが、漂流ものは確かに面白い。漂流記の面白さは、極限状況の中で人間が示す知恵と勇気の面白さです。漂流記が成立するためには、漂流者が生きて帰還したからで、生き残るために何かを「食べ」たからです。本書は、この「何を食べていたか」に的を絞り、よく冷えた生ビールなどを飲みながら漂流記を読むというエッセーです。漂流記の影には、帰還できなかった幾万人の遭難者がいたわけですが。

究極の水分補給法
 漂流には、主に海、孤島、極地探検が行われるようになって南極などがあります。海では、漂流者は魚、カメ、海鳥などを食べるのが定番です。水は、海水を飲むわけにはいきませんから、雨水を貯めて飲みます。雨が降らなければどうするのか?。ドゥガル・ロバートソン『荒海からの生還』に瞠目の答えがあります。看護師のロバートソン夫人は、飲めない水(海水?)を肛門から注入し、つまり浣腸によって腸から水分を吸収するという処置を編みだします。初めて聴きました、凄い!の一言です。
 食の方は、この水分摂取法に比べるとオーソドックス。ボートに飛び込んだトビウオを食べ、安全ピンで作った釣り針でシイラを釣って食べます。南極になると、アザラシの生食、ペンギンのシチュー、ペンギンのステーキとなります。南極を目指し遭難したエンデュアランス号は、ソリを曳く犬まで食べます。

アザラシ肉は全身が食用に適している。その肝臓には繊細な味わいさえあり・・・まだ食料の量も種類も豊富だった頃でさえ、私たち全員が好んで肝臓を食べた。アザラシの脳みそは、アザラシ脂でフライにすると、やはり非常に美味だった。前ヒレは、中まで焼き上げると仔牛の脚肉に似た味だった。(『凍える海、極寒を24ヶ月間生き抜いた男たち』)

シロクマの肉も絶品らしく、読んでいてヨダレが出そうです。

漂流者の「暮らしの手帳」
 漂流者が死ぬのは、漂流して3日前後が多いらしい。水や食料より精神的に参ってしまうことで亡くなるようです。『大西洋漂流76日間』のスティーヴン・キャラハンは、襲い来る困難に立ち向かうのに忙しく絶望を感じる余裕すらなかったといいます。キャラハンの生き残る創意工夫は、さながら漂流者の『暮らしの手帳』だと著者は言います。
 キャラハンは万一を想定して大型救命ボート(ライフラフト)を用意しており、水、食料、釣り道具は勿論のこと、何と『シーサバイバル』なる本までボートに積んでいます。有り合わせの材料で「真水生成器」作り、水中銃のモリを修理し、鉛筆3本で六分儀を作り(どうやって?)、飛び魚の頭と尻尾でルアーを作りと、まるで漂流を楽しんでいるかのような書きっぷりです。漂流を楽しむわけはないのですが、困難を前向きに捉えるという気持ちが生還に繋がるのでしょう。この漂流記は読んでみたいです。

日本の漂流記
 日本の漂流記の白眉は何と言っても『北槎聞略』。紀州から江戸へ向かう途中で遭難し、シベリヤ、モスクワを経て9年の歳月をかけて日本に帰る大黒屋光太夫の漂流譚は感動します。明治32年の漂流記『無人島に生きる十六人』も面白いです(青空文庫にあります!)。この本については、本書に面白いエピソードが記されています。講談社の本が絶版となり、著者は講談社に残ったたった一冊をコピーして読んだといいます。あまりに面白いので新潮社の編集者に話したところ、なんと新潮社が出版したそうです。この漂流記が現在読めるのは著者のおかげです。
 海洋調査船「龍睡丸」がミッドウェ近海で遭難して無人島に漂着し、16人のオッサンが4ヶ月この無人島で暮らす漂流記です。16人はこんな掟を作って生き延びます。①(島で)手にはいるもので、くらして行く、②できない相談を言わない、③規律正しい生活をする、④愉快な生活を心がける。サバイバルという雰囲気ではなく、キャンプの延長のようです。極めつけは、アザラシを手なづけてペットにすることでしょう。

 『コン・ティキ号探検記』は映画化されていますが、映画長編ドキュメンタリー映画『Kon-Tiki』がnetにあります。

タグ:読書
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