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半藤、加藤、保阪 大平洋戦争への道 ① 1931-1941(NHK出版) [日記 (2022)]

太平洋戦争への道 1931-1941 (NHK出版新書 659, 659)  こちらは1926~1945年の昭和史ですが、本書は満州事変の起こった1931年から真珠湾奇襲の1941年、タイトル通り太平洋戦に至る10年間の昭和史です。NHKラジオ番組『大平洋戦争への道』(2017.8/15)を書籍化したもので、半藤一利、加藤陽子、保阪正康、3氏の鼎談を保坂氏が補足解説する形態です。対談ですから話が転回し、脇道に外れた辺りに以外な真実があったりと興味深いです。
全6章です。

  1. 関東軍の暴走 (満州事変、満州国建国)
  2. 国際協調の放棄 (リットン報告書、国際連盟脱退)
  3. 言論・思想の統制 (五・一五事件、二・二六事件)
  4. 中国侵攻の拡大 (盧溝橋事件、国家総動員法制定)
  5. 三国同盟の締結 (第二次世界大戦勃発、日独伊三国同盟)
  6. 日米交渉の失敗 (野村・ハル会談、真珠湾攻撃)
新聞とラジオ
 満州事変に始まる太平洋戦争は、保坂によると日本の「生存権」の拡大であり、それを国民が支持し軍部が乗った。なぜ関東軍の暴走が止められなかったのか?。責任の一端は、「十万の英霊と二十億の国帑(費)」を費やして獲得した満州は「日本の生命線」と信じる国民と、国民を煽った新聞ラジオ、さらに関東軍の暴走を追認した陸軍中央にあると云います。

一九三一年(昭和六年)、 満州事変が勃発すると、新聞各紙は一斉に戦争支持にまわりました。国内最大の部数を誇った『東京日日新聞』 も、 「守れ満蒙(満州および内蒙古) 帝国の生命線」と題した四ページ全面の特集記事を掲載しました。新聞は、軍の発表をもとに競って号外を発行し、販売部数を大きく伸ばしました。

景気よくラッパを吹いた方が新聞は売れるわけです。新聞とともに戦争を伝えたのが、当時急速に普及していたラジオ。ラジオの受信契約数は1931年の100万が1940年には500万を越えています。 日本放送協会の当時の番組編成の方針は、

ラジオの全機能を動員して、生命線満蒙の認識を徹底させ、外には正義に立つ日本の国策を明示し、内には国民の覚悟と奮起とを促して、世論の方向を指示するに務める。

ラジオと新聞は満州事変の戦果は華々しく報じるものの、満州事変が関東軍の謀略で引き起こされた事実については、終戦まで報道しなかったようです。
 太平洋戦争は軍部の暴走と云うのが決まり相場ですが、それを支持した国民と国家がいたわけで。

 1931年の日本は、満州をウクライナに生命線をネオナチに置き換えると、報道規制をかけて支持率80%を誇るプーチンのロシアです。

満州国建国の土台となった2つの見解
1)山県有朋の「主権線」と「利益線」
 山県有朋は、1890年(明治23)のが施政方針演説で日本の目指す国家像を示します。国家には固有領土の「主権線」と経済的な「利益線」の二つがあり、利益線があってはじめて主権線が維持される、と説きます。日本列島という主権線を護るために満州と云う利益線が引かれるわけです。

2)満蒙問題私見
 関東軍参謀・石原莞爾は、彼の唱える「世界最終戦争」に備えるために、満蒙を植民地として経営し国力を蓄えることを説きます。

然レ共国家ノ状況之レヲ望ミ難キ場合ニモ若シ軍部ニシテ団結シ戦争計画ノ大綱ヲ樹テ得ルニ於テハ謀略ニヨリ機会ヲ作製シ軍部主動トナリ国家ヲ強引スルコト必スシモ困難ニアラス
 若シ又好機来ルニ於テハ関東軍ノ主動的行動ニ依リ回天ノ偉業ヲナシ得ル望絶無ト称シ難シ(『満蒙問題私見』)
 
 「謀略」と記された一参謀の『私見』を陸軍は基本構想とします。関東軍は張作霖爆殺事件(1928)を起こしていますから謀略の体質は『満蒙問題私見』以前からあったわけです。

満州事変、満州国建国
 9/18に柳条湖事件が起き、4日後に関東軍の参謀5人(参謀長の三宅光治、参謀の板垣征四郎、石原莞爾、片倉衷、謀略関の土肥原賢二)による打ち合わせが行われます。満洲国建国の構想が話し合われ、

東北四省及蒙古ヲ領域トセル宣統帝ヲ頭首トスル支那政権ヲ樹立

辛亥革命後に天津の日本領事館に亡命している清朝最後の皇帝溥儀を担ぎ出すことになります。
この地に各民族(五族協和)の楽土(王道楽土)をつくり、その国家体制は、国防・外交は日本が担うとしつつ、内政は新政権がその役割を果たす、という方針を固めた。表面的には満蒙地域に日本が支援する独立政権を立てるというかたちになったのである。そして天津で日本の庇護下にある溥儀を担ぎ出すことを決めた。関東軍の幕僚たちは、日本政府の意思にかかわらずにここまで国家の政策に自在に口を挟む状態になっていたのである。

タグ:読書 昭和史
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