SSブログ

半藤一利 昭和史 1926-1945 ① 張作霖爆殺事件、統帥権干犯問題 (2009平凡社) [日記 (2022)]

昭和史 1926-1945 (平凡社ライブラリー 671)  『漱石先生ぞな、もし』『日本のいちばん長い日』の著者で歴史探偵・半藤一利の「昭和史」です。

昭和史の根底には〝赤い夕陽の満州〟があった
 日露戦争(1904)の勝利によって、日本は旅順・大連を含む遼東半島の租借権、南満州鉄道と安奉鉄道の経営権と付随する炭鉱の採掘権と鉄道の安全を守るため軍隊の駐屯権を得ます。結果この地=満州は、1)鉄道を護るため軍隊が置かれ(後の関東軍)、2)石炭と鉄が豊富にあり、日本の資源供給地となり(但し石油は無かった)、3)膨張する人口の移民先となります。この3点が昭和史を大きく動かし、著者は「昭和史の根底には〝赤い夕陽の満州〟があった」「昭和史の諸条件は常に満州問題絡んで起こる」といいます。
 日韓併合(1910)、張作霖爆殺事件(1928)もこの満州の利権を守るためであり、日本は満州事変から満州国の建国、日中戦争、太平洋戦争へと踏み込んでいくわけです。

天皇陛下大いに怒る
 『昭和天皇独白録』と云う、天皇が側近に語った談話録があるそうです。『独白録』が「張作霖爆殺事件」(昭和3年)から始まる様に、昭和史はこの事件から幕を開けます。
 張作霖爆殺事件は、軍閥・張作霖を除き満州を日本軍の直接支配に置こうと、関東軍参謀の河本大佐が仕掛けた謀略です。天皇側近の西園寺はこれを見抜き、総理大臣の田中義一(元陸軍大将)に真相を糺しますが田中はのらりくらり。結局、軍法会議で罪を問うことなく、張作霖を守れなかったという行政処分で済ませてしまいます。河本は、軍法会議を開けば事件は陸軍の謀略だったとバラスと脅し、バラされれば陸軍は吹っ飛ぶ。田中は真相を明らかにせよという天皇の命を裏切ったわけです。

「田中は再び私の処にやって来て、この問題はうやむやの中に葬りたいという事であった。それでは前言と 甚だ相違した事になるから、私は田中に対し、それでは前と話が違うではないか、辞表を出してはどうかと強い語気で云った。

 結局、田中の辞職で《張作霖爆殺事件》は決着しますが、この事件は(著者の云う)昭和史の「諸条件」のひとつになったと云います。陸軍を牽制しようとした西園寺公望は、内大臣の牧野伸顕、侍従長・鈴木貫太郎を誘って田中に圧力をかけたわけです。ところが西園寺は途中で日和ります。

「そんなことをしたらとんでもないことになる。天皇陛下自ら総理大臣に辞めろというなど、憲法上やってはいけないこと。賛成した覚えはない」

牧野は日記に、

「あまりの意外に 茫然自失、 驚愕 を禁ずるあたわず」 とあります。半分くらい腰を抜かしてしまって「そんな馬鹿な、これは大変だ」と粘りはするのですが、西園寺さんもゆずらない。理由を聞くと、「自分は 臆病 なり」と西園寺さんは言ったそうです。 

「今日は結局の帰着を見ずして公爵邸を 辞去 したり。三十余年の交際なるが今日の不調を演じたるは 未曾有 のことなり」

天皇や牧野伸顕の肉声が登場する辺りが半藤利一『昭和史』の面白いところです。張作霖爆殺事件は昭和史に何をもたらしたのか?、

昭和天皇が以後、内閣や軍部が一致して決めたことにノーを言わない、余計な発言をしないという立場を守り抜く、つまり「 君臨 すれども 統治 せず」、これが立憲君主国の君主のあり方だと自ら考えた。昭和史は常にここからはじまり、これがのちに日本があらぬ方向へ動き出す結果をもたらすのです。

魔法の杖
 もうひとつの「諸条件」が「統帥権干犯問題」、今度は海軍です。ロンドン海軍軍縮会議(昭和5、1930)で、戦艦の総トン数が7割に制限されます。これを軍令部が問題視します。海軍には、統帥(指揮)をあずかる軍令部と軍政を扱う海軍省があります。海軍大臣が会議に出席して勝手に削減を受け入れた、これは天皇の持つ統帥権を犯すものである、というわけです。海軍の統帥権は天皇にありますから海軍省が統帥権を犯したというわけです。天皇が絡みますから、海軍の偉いサンが大挙責任をとって辞職して決着します。つまり、天皇を持ち出せば軍部は政治に何でも言えるという「魔法の杖」(司馬遼太郎)を得たことになります。「魔法の杖」で政治を動かせると思いついたのは 北一輝だそうです。

 「張作霖爆殺事件」で天皇は政治に逆らえなくなり(沈黙する天皇)、「統帥権干犯問題」によって天皇を持ち出せば政治が介入できない聖域が出来上がります。満州の利権を護るという大義を掲げ、この2つを使って軍部が独走したのが昭和史だといいます。 続きます。

タグ:読書 昭和史
nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。