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先崎彰容 吉本隆明 共同幻想論 (3)-1 (2020NHK出版) [日記 (2022)]

吉本隆明『共同幻想論』 2020年7月 (NHK100分de名著)  前回まで、対幻想(家族)が原始農耕社会の共同幻想に拡大(同致)する様子を読んできました。国家の成立まであと一歩。
 
天つ罪、国つ罪
 アマテラスとスサノオの話です。父イザナギはアマテラスに地上(高天原)を、スサノオに海の統治を命じます。スサノオはこれが不満で母の国に行きたいと泣いて暴れ(高天原から)追放されます。吉本はこれを、スサノオの原始農業共同体がアマテラスの大和朝廷に支配・統一されてゆく過程が神話化されたものだと解釈し、母の国とは母権制だと解釈します。出雲、島根地方に残るスサノオの伝承や出雲大社の祀神オオクニヌシの父親がスサノオで、出雲王朝は大和朝廷に飲み込まれますから、一般的な解釈です。
 
 もうひとつ、『古事記』の「天の岩戸」の神話です。スサノオはどの様に暴れどんな罪を犯したかというと、アマテラスの料田の〈畔離ち〉、〈溝埋み〉、神殿の〈屎戸〉、馬の〈逆剝ぎ〉などです。田の畔を壊したり溝を埋め農耕馬を殺傷するわけです。この乱暴狼藉の罪でアマテラスは天の岩戸に隠れ、例のストリップティーズ?が行われるわけですw。この「畔離ち」以下の罪は「天つ罪」と呼ばれ、農耕部族である大和朝廷の規定する罪だと言います。また、天つ罪に対して「国つ罪」があり、近親相姦(上通下通婚)、獣姦などがあります。スサノオに科せられた罰は、共同体からの追放と髭を剃り爪を切ることで、追放はスサノオ個人に対する罰というより、共同体の秩序を護る意味合いが強く、髭を剃り爪を切ることは「清め祓う」行為に当たるそうです。
 
これらの〈罪〉概念は〈法〉的には原始的な農耕法と家族法(近親相姦の禁止など)の概念に対応しているが、その〈罪〉概念自体が、呪術宗教的な段階をあまり離脱してはいない。だから『古事記』のなかで神代と初期天皇群の記載に共通に登場したとしても、この〈罪〉概念に対応する〈法〉はプリミティヴな〈国家〉の共同幻想にまで遡行する時間性をもっている。(起源論)
 
 罪に対して罰を与える「権力」が存在するわけですから、それが村の長老会議であっても、プリミティヴ(原始的)な〈国家〉の萌芽だといえます。この罪と罰を与えるのが「神」だとすれば、宗教も共同幻想ということになります。
 
この「天つ罪」が列島を新たに支配していく大和朝廷がもたらした罪概念だとすれば、一方の「国つ罪」は、前農耕的できわめて原始的な氏族共同体以前にまで遡る禁忌です。二つの罪の間に置かれたスサノオは、大和朝廷の秩序に背反しつつ、贖罪の仕方は原始的な祓い清めの方法で行っていることになります。まさに過渡期の例であり、法の一歩手前の段階、すなわち「規範」の段階にあると言えるでしょう。
 
 この過渡期の神話がいくつかあります。垂仁天皇と后サホ姫は、兄のサホ彦に命ぜられ天皇を殺そうとしますが果たせず自白、天皇はサホ彦を滅ぼしサホ姫は兄に殉じます。
 
サホ姫は氏族的な〈対幻想〉の共同性が、部族的な〈共同幻想〉にとって代られる過渡期に、その断層にはさまれていわば〈倫理〉的に死ぬのである。
(起源論)
 
〈倫理〉的に死ぬというのは後で考えるとして、対幻想が共同幻想に拡大される過程、母権制が父権制に移行する過程の神話であることは理解できます。

タグ:読書
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