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斎藤幸平 人新世の「資本論」(1) (2020/9/17集英社新書) [日記 (2023)]

  人新世の「資本論」 (集英社新書)  『資本論』は『共産党宣言』とセットで社会変革運動の教科書と思っていましたが、それだけではないらしいです。第1巻はマルクス自身が執筆し1867年に第1巻が完成しますが、第2巻、第3巻はマルクスの遺稿をエンゲルスが編纂したものだそうです。1883年に亡くなるまでの15年間にマルクスは自然科学(エコロジー)と共同体の研究をしていたというのです。その研究成果は著作とはなっていませんが、21世紀の視点でみると、マルクスは資本主義の行き着く先と地球の環境破壊まで見通し、その処方箋を提示していたと云うのです。マルクスとエコロジー、ヘェ~という書籍です。ベストセラーらしいです。

 「人新世」とは 聞き慣れない言葉です。wikipedeliaによると

人新世とは、人類が地球の地質や生態系に与えた影響に注目して提案されている地質時代における現代を含む区分。

洪積世の「世」の時代区分らしいです。CO2の排出で温暖化が進み、地質時代に新しい「世」=人新世(ひとしんせい)がやって来るというのです。目次を見るとだいたい分見当が付きます。

第一章 気候変動と帝国主義的生活様式
第二章 気候ケインズ主義の限界
第三章 資本主義システムでの脱成長を撃つ
第四章 「人新世」のマルクス
第五章 加速主義という現実逃避
第六章 欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム
第七章 脱コミュニズムが世界を救う
第八章 気候正義という「梃子」

気候変動 と 資本論
 資本主義とは、価値増殖と資本蓄積のために、さらなる市場を絶えず開拓していくシステムである。そして、その過程では、環境への負荷を外部へ転嫁しながら、自然と人間からの収奪を行ってきた。この過程は、マルクスが言うように、「際限のない」運動である。利潤を増やすための経済成長をけっして止めることがないのが、資本主義の本質なのだ。(p117)

 資本主義は、(産業革命以来)経済成長によってCO2を排出し続けて気候変動をもたらしたのです。ロシアにしろ中国にしろ共産主義国ではなく専制主義の資本主義国家ですから、世界は資本主義で動いています。このまま行くと2100年には平均気温が3.5℃上昇し人類は壊滅的な打撃を受けると言われています。資本主義の命題である経済成長こそが悪の根源、経済成長を止めることが人類を救う唯一の道であり、経済成長を止めるためには資本主義を放棄する必要があるというのが著者の主張です。
 マルクスは、『資本論』出版の1867年から亡くなるまでの15年間、環境破壊による人類の滅亡とその回避策を研究していたといいます。

『資本論』には「物質代謝論」とい考え方があるそうです。

人間は絶えず自然に働きかけ、さまざまなものを生産し、消費し、廃棄しながら、この惑星上での生を営んでいる。この自然との循環的な相互作用を、マルクスは「人間と自然の物質代謝」と呼んだ。(p156)
マルクスによれば、人間はほかの動物とは異 なる特殊な形で、自然との関係を取り結ぶ。 それが 「労働」である。 労働は、「人間と自然の物質代謝」を制御・媒介する、人間に特徴的な活動なのである。(p158)

マルクスは同時代の科学者リービッヒの「略奪農業」批判から

こうして(資本主義の)大土地所有は、社会的物質代謝と自然的な、土地の自然諸法則に規定された物質代謝の連関のなかに修復不可能な亀裂を生じさせる諸条件を生み出すのであり、その結果、地力(土壌の力)が浪費され、この浪費は商業を通じて自国の国境を越えて遠くまで広められる(資本論第3巻)

資本主義はこの「自然の物質代謝」を破壊すると警告します。
 『資本論』出版後、亡くなるまでの15年間、マルクスの研究は自然科学(エコロジー)と非西欧・前資本主義社会の共同体に向かいます。共同体の研究は、古代ゲルマン民族の共同体「マルク協同体」が土地を共同で所有し持続可能な農業を営んでいたためです。『資本論』のエコロジー側面が語られるようになったのは最近のことで、『資本論』の出版以降のマルクスの研究は、膨大な草稿、書き抜きはあるものの、著作としてはまとまっていないためです。

 15年間の研究で、マルクスは、『資本論』の中核である「生産力至上主義」と「ヨーロッパ中心主義」の進歩史観を捨てたといいます。

「生産力至上主義」とは、資本主義のもとで生産力をどんどん高めていくことで、貧困問題も環境問題も解決でき、最終的には、人類の解放がもたらされるという近代化賛美の考え方である。ここにあるのは、単線的な歴史観である。 「生産力の高い西欧が、歴史のより高い段階にいる。それゆえ、ほかのあらゆる地域も西欧と同じように資本主義のもとでの近代化を進めなくてはならない」というわけだ。これが、「ヨーロッパ中心主義」である。(p153)

 「生産力至上主義」が「自然の物質代謝」(生態系?)を破壊すると考えたマルクスは、貨幣や私有財産を増やすことを目指す「個人主義的な生産」を捨て、「協同的富」を共同で管理する〈コモン〉の思想に到達したといいます。→(2)へ

タグ:読書
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