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斎藤幸平 人新世の「資本論」(2)  (2020/9/17集英社新書) [日記 (2023)]

人新世の「資本論」 (集英社新書)
コモン
 地球温暖化の処方箋には、「緑の経済成長(グリーン・ニューディール)」と「脱成長資本主義」があるそうです。著者は、資本主義の構造改革で気候変動を克服しようと云う自家撞着を批判し、マルクスがたどり着いたコモンという第三の道に注目します。コモンセンス(常識)、コモンロー(一般法、慣習法)のcommonです。

 著者は、コモンを「社会的に人々に共有され、管理されるべき富」「社会的共通基盤(宇沢弘文)」と定義します。水や土、電力や交通の社会的インフラ、教育や医療の社会制度のことです。
 これらコモンの管理を、専門家に任せることなく市民が参加し共同管理することを重視することが大事だとします。 そして、最終的には、この「コモン」の領域をどんどん拡張していくことで、資本主義の超克を目指すというのです。市民運動のようなもの?

労働と生産のあり方
 著者は「生産」の形態にも着目します。

資本の無限の価値増殖を求める《生産》が、自然本来の循環過程と乖離し、最終的には、人間と自然の関係のうちに「修復不可能な亀裂」を生むという見方だ。マルクスによれば、この亀裂を修復する唯一の方法は、自然の循環に合わせた生産が可能になるように、労働の領域を抜本的に変革していくことである。
・・・一般に共産主義といえば、私的所有の廃止と国有化のことだという誤解がはびこっているが、所有のあり方さえも、根本問題ではない。肝腎なのは、労働と生産の変革なのだ。ここに、マルクス主義や労働者運動に対する忌避感ゆえに、「労働」という次元に踏み込もうとしない、旧来の脱成長派と本書の立場の決定的な違いがある。(p291)

 著者は、気候変動の克服には経済成長をしない循環型の定常型経済(ゼロ成長経済)が不可欠であり、『資本論』の再評価から「脱成長コミュニズム」を提唱します。「脱成長コミュニズム」という立場で資本論から5つの回答を引き出します。

1)使用価値経済への転換:「使用価値」に重きを置いた経済に転換して、大量生産・大量消費から脱却する
2)労働時間の短縮:労働時間を削減して生活の質を向上させる
3)画一的な分業の廃止:画一的な労働を廃止して労働の創造性を回復させる
4)生産過程の民主化:生産のプロセスの民主化を進めて、経済を減速させる
5)エッセンシャル・ワークの重視:使用価値経済に転換し、労働集約型のエッセンシャル・ワークの重視を

「使用価値」とは、ブランド等の虚飾を省いた物の持つ本来の価値のこと。「エッセンシャル・ワーク」とは、医療・福祉関係に代表される社会インフラ維持に必要不可欠な労働を指します。コロナパンデミックで、エッセンシャル・ワークが重要なことを体験し、また(利潤に走る企業は)国内ではマスクを生産することが出来なかったことを体験しました。

 気候変動回避のためにCO2の削減は急務であり、そのための脱成長も理解できます。5つの処方箋もその通りなんでしょうが、ドップリと浸かった資本主義を否定することが出来るかどうか。経済成長を放棄すると言った途端、政権は批判され次の選挙では間違いなく野党に転落するでしょう。気候変動など先送りし我が亡き後に洪水よ来たれ」と思っている大多数の日本人にとって、地球温暖化は他人事かもしれません。そんな悲観論に、著者は3.5%と云う数字を示して見せます。

3.5%
 何の数字かと云うと、3.5%の人々が非暴力的な方法で立ち上がると社会が変わるという数字です。マルコス独裁を倒した「ピープルパワー革命」 (1986)、グルジアのシェワルナゼを辞任に追い込んだ「バラ革命」 (2003)がそうだといいます。

ニューヨークのウォール街占拠運動も、バルセロナの座り込みも、最初は少人数で始まった。
グレタ・トゥーンベリの学校ストライキなど 「たったひとり」だ。「1% vs. 99%」のスローガンを生んだウォール街占拠運動の座り込みに本格的に参加した数も、入れ代わり立ち代わりで、数千人だろう。
それでも、こうした大胆な抗議活動は、社会に大きなインパクトをもたらした。 デモは数万~数十万人規模になる。SNSでその動画は数十万~数百万回拡散される。そうなると、選挙では、数百万の票になる。 これぞ、変革の道である。(p362)

 フィリピンにしろグルジアにしろ、国民の追い詰められた危機感があったわけで、資本主義のぬるま湯に浸っている日本に危機感はありません。地球温暖化の「茹でガエル」になっているわけです。日本の茹でガエル1.05億人(有権者数)の3.5%370万人が覚醒するかどうか?。経済成長なき日本、国民がうけいれるかどうか?。

タグ:読書
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