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小川 哲 地図と拳(2022集英社) [日記 (2023)]

地図と拳 (集英社文芸単行本)  時代は1899年〜1945年、舞台は満州。地図とは「君は満洲という白紙の地図に、日本人の夢を書きこむ」とあるように中国東北部、満州を指し、拳とは満州を制圧した関東軍の軍事力、また抗日武装組織を指します。五族協和の理想を抱き「満州」建国に燃える日本人と民族の自立を目指す中国人の物語です。

 舞台は満州の架空の村《李家鎮》。李家鎮に石炭が発見されたため、後に《仙桃城》と呼ばれる街に発展し滅びるまでの50年の興亡史です。作者は満州国の勃興と滅亡を李家鎮に置き換えたわけです。
 冒頭、ハバロフスクからハルビンへ向かう陸軍参謀本部の間諜、高木と通訳の細川が登場します。細川は李家鎮に石炭鉱脈があることを知り、日本の開発によって李家鎮発展の契機となります。登場人物は、満鉄社員となった細川、須野、高木の息子(正確には妻が再婚して生まれた)明男、抗日組織の孫丞琳、関東軍兵士、八路軍の指揮官、ロシア正教の宣教師e.t.c.と多彩、泥棒まで登場します。これら登場人物よって満州を多面的に描きだそうというのが作者の意図なのでしょう。個々のエピソードをジグソーパズルのピースとして満州という「事件」を描き出そうというわけです。

 1928年には張作霖が爆殺され、1931年には満州事変が起き、この物語りの中盤1932年に満州国が建国されます。1937には国共合作、盧溝橋事件と満州に関わる事件が勃発しますが、そうした時代背景はほぼスポイルされます。後世の我々は、俯瞰的に満州国の成立を知っていますが、物語に登場する兵士や庶民はそうした歴史を知る術はありません。ありませんが、そうした歴史の影響下で登場人物を動くのが小説です。

 満州事変の立役者石原莞爾、満州の影の支配者甘粕正彦も(名前は出てきますが)登場せず、謀略も詐術とも無縁にストーリーは李家鎮=仙桃城の内で展開します。例えば、共産党の軍事組織、八路軍の「整風運動」と云うエピソードが描かれます。兵士に自己批判を強いて思想統制を図る運動で、後の文化大革命を彷彿とさせます。抗日組織の孫丞琳の関わるエピソードですが、それがストーリーにどうか関わったのかは?。また、日本人の反戦地下活動や憲兵隊よる弾圧も描かれます。拷問に屈し裏切りによって運動は崩壊します。如何にもありそうなこれら個々のエピソード、ピースが組み合わさってひとつの「物語」を形作るかと云うとそうでもなく、断片に過ぎません。

 本書は第168回直木賞受賞作です。直木賞を受賞したのですから力作なんでしょうが、個人的にはドラマの無い断片の集合に過ぎませんでした。きっと読解力が足りないのでしょう、ちょっと当てが外れましたw。

タグ:読書 満州
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