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グレアム・グリーン ヒューマン・ファクター(1) (ハヤカワ文庫) [日記 (2024)]

ヒューマン・ファクター (Hayakawa novels) 英国情報部MI6に30年勤めた二重スパイ、モーリス・カースルの話です。MI6の二重スパイというとキム・フィルビー事件があり、同事件を下敷きにしたエスピオナージです。タイトルが『ヒューマン・ファクター』人的要因ですから、カースルがなぜ二重スパイになったのか?、情報部という組織がもたらすヒューマン・エラーが描かれることになるのか?。『情事の終わり』のグレアム・グリーンですから、人間の顔をしたエスピオナージとなるはずです。


MI6 
 カースルには特異な性格が与えられます。カースルは任地の南アフリカで現地の女性と恋に落ち、本国に連れ帰り結婚します。この女性は情報員カースルの協力者で反アパルトヘイト活動家。南アの秘密警察BOSSから手配され、カースルは彼女を隣国に脱出させ本国に連れ帰ります。イギリスで生まれた息子はカースルの子供では無く、妻と息子は黒い肌のアフリカン。妻の名はサラ、奇しくも『情事の終わり』の不倫相手と同じ名です。

 第6課に情報法漏洩の疑いが生じ、アフリカ担当のカースルとデイヴィスの2人が調査対象となり電話は盗聴され尾行が付きます。カースルは、ロンドン郊外に居を構え妻子と共に生活を送っている実直な役人。カースルは飲酒癖があるわけでなく、車も持たず駅まで自転車で通勤する節約家と見られています。一方のデイヴィスは、給料の大半をワインとウィスキー、そしてジャガーのガソリン代に注ぎこみこ競馬に耽溺しているため、報酬目当ての情報漏洩が疑われたわけです。

 情報部長官ハーグリーヴス卿は、医師パーシヴァル博士、監察官デイントリー大佐を狩猟に事よせて山荘に招き、この情報漏洩を協議します。

たとえば、古くからある手だが、餌に印をつけておくのはどうだ? あんがい成功率が高いと思うよ。 そしてその男を犯人に間違いなしと見たら、早いところ消し去るのがいい。裁判なしにだ。外部には知らさんでだ。 できればその前に、そいつの連絡相手をつかまえるべきだが、ぐずぐずしておって、肝心な鳥に逃げられたらことだ。 飛行機でモスクワへ飛ばれて、記者会見なんかやられたらまずい。逮捕もやはり問題外だ。かりにその男が六課の者であっても、法廷でこのスキャンダルをさらしてまで、彼の口から引き出さねばならぬ情報があるとは思えんのだ。ーーーだからきみに、パーシヴァルと会ってもらいたかった。欲しいのは医師の手になる死亡診断書だ。死亡診断書があれば、検死審がなくてすむ。(p59)

 情報部長官はキム・フィルビー事件の様なスキャンダルを恐れ、二重スパイを「消し去る」ために医師パーシヴァルを同席させたわけです。元MI6のグレアム・グリーンが書くと、迫力が違います。確たる証拠も無いまま、デイヴィスはパーシヴァル博士に毒殺されます。

二重スパイ
 英米南アが共同で進めるアンクル・リーマス作戦(アパルトヘイト擁護作戦)のため南ア秘密警察BOSSの代表者ミューラーが訪英し、かつて諜報員として対峙したカースルがイギリス側の窓口に指名されます。ミューラーは自分たちが追っていたサラがカースルの妻となっていたことを知り、カースルはサラ脱出を援助したコミュニストが秘密警察の手で殺されたこと知ります。カースルは、サラを助ける代償に二重スパイになったことが明かされます。 →(2)へ

タグ:読書
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