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マイクル・コナリー ナイトホークス [日記(2007)]

ナイトホークス〈上〉 (扶桑社ミステリー)

ナイトホークス〈上〉 (扶桑社ミステリー)

  • 作者: マイクル コナリー
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 1992/10
  • メディア: 文庫


 ロス市警のヒーローにして一匹狼のヒロエニムス・ボッシュハ不祥事で追い出され、所轄の『下水』と呼ばれるハリウッド署に飛ばされたボッシュは、パイプ(土管)の中で致死量の麻薬を打って死んだベトナム戦争当時の同僚と再会します。ふたりはベトナムで、地下トンネルから北ヴェトナムゲリラを狩り出す『トンネルネズミ』と呼ばれる工作兵の部隊に所属していたというつながりがあったのです。戦友の死に疑問を抱いたボッシュが捜査を進めるうちに、トンネルを掘った銀行強盗事件にゆきあたり、『トンネルネズミ』の影が濃くなってゆきます。

 捜査の為に古巣市警本部に行った際の描写は、ハリー・ボッシュが如何なる警官かを如実に描写しています。

「ボッシュはテーブルの下で片足をあげ、向かいの椅子を相手のほうに蹴りだした。椅子はテーブルから飛び出し、背もたれが刑事の股間に命中した。相手は身をふたつにおり『うっ』という声をあげ、椅子をつかんで体をささえた。ボッシュは自分の評判が相手にようやく浸透したのがわかった。ハリー・ボッシュ 一匹狼、喧嘩屋、殺し屋。かかってこい、小僧、どんなことでもやってみろ。」

 かっこいいですね。15世紀の幻想画家と同じ名前を持つヒーロー、ヒエロニムス・ボッシュの登場です。また、捜査のパートナーとなるFBI女捜査官エレノア・ウィッシュはこう言います、

「あなたは組織に属している人間だわ、ボッシュ刑事・・・あなたの母親には夫はいなかった。あなたを捨てざるをえなかった。あなたは孤児院で育った。そこを生き抜き、ヴェトナムを生き抜き、警察署でも生き抜いた。すくなくともいまのところは。でも、あなたは仲間内で構成されている職場のなかの一匹狼。それでいて強盗殺人課までたどりつき、おおきな事件を解決してきたけれども、徹頭徹尾一匹狼だった。あなたは自分のやりかたをとおし、結局そのせいで追い出されてしまった。」

作者はシリーズ第1作で、ハリー・ボッシュという刑事をこう造形したのですね。

 ボッシュとウイッシュの捜査が進むなかで、何故犯人はその銀行を狙ったのか、2つある金庫のうち、何故貸金庫のある金庫を狙ったのか、の謎が現れ、物語は佳境を迎えます。ネタバレになるので書けませんが、あっと云う結末が用意され、一気に読む進むこととなります。

 本書は、なかなか陰影深い警察小説です。複雑な過去を持つ「ワンマン・アーミー」の刑事に、アメリカが抱えるヴェトナム戦争の影、刑事とFBI女捜査官の恋。題名も『ナイトホークス(夜鷹?夜更かしする人たち)』、但し原題はTheBlackEcho。『黒いこだま』とは、ヴェトナムのトンネルを指しています。

「どのトンネルも黒いこだまだった。死以外のなにものもない。それでも彼ら(トンネル鼠)は入っていった。」

同時に、メドーズが銀行強盗のために掘ったトンネル、あるいはボッシュが掘り進む犯罪捜査のトンネル、さらに、1975年(サイゴン陥落)のヴェトナムに通じるタイムトンネルを象徴しているのかもしれません。

 この『ナイトホークス(夜の鷹)』とは、作中に出てくるエドワード・ホッパーの絵のタイトルです。エレノアの部屋の壁を飾ざるこの暗い絵の人物に、ボッシュとエレノアは自分を重ねることによってふたりの絆を確認するわけです。なかなかしゃれた挿話で、題名をThe Black Echoから『ナイトホークス』と変えたところに、訳者の思い入れが感じられます。

ちょっと長いですが物語のラストを引用します、

 「・・・ひきかえに茶色の紙に包まれた幅のある、ひらべったい包みを受け取った。差出人は書かれていなかったが、エレノア・ウィッシュから送られたものだった-それは勘ででわかった。包装紙とビニール製の緩衝シートを破りとると、額に入ったホッパーの<夜ふかしする人たち>の複製画が現れた。彼女と過ごした最初の夜、カウチのうえにかかっているのを見た絵だ。
 ボッシュは複製画を玄関のドアのそばの廊下にかけた・・・絵はいつ見てもボッシュを魅了し、エレノア・ウィッシュの記憶を呼び起こした。暗闇。どうしようもない孤独。ひとりきりですわって、暗闇に目をむけている男。おれはあの男だ。ハリー・ボッシュはその絵を見るたびにそう思うのだった。」

エドワード・ホッパー 『ナイトホークス』
コナリー公式サイト →http://www.michaelconnelly.com/index.html
Wikipedia →http://en.wikipedia.org/wiki/Edward_Hopper

1992年のエドガー賞受賞作だけのことはあります →☆☆☆☆


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