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森村誠一 虹の生涯 新撰組義勇伝 [日記(2008)]


虹の生涯 上―新選組義勇伝 (1) (中公文庫 も 12-53)

虹の生涯 上―新選組義勇伝 (1) (中公文庫 も 12-53)

  • 作者: 森村 誠一
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2008/10
  • メディア: 文庫


 副題が『新選組義勇伝』。主人公は将軍直属の公儀御庭番、和多田主膳。実態は、『御見得以下の添番格五十俵十人扶持の軽輩』、家督を息子に譲りその嫁にも邪魔にされ毎日成すところ無く釣りに明け暮れる五十九歳の隠居。この風采の上がらぬ初老の男の『義勇伝』です。
 安政七年三月三日朝、と云えば『桜田門外の変』です。釣りに出掛けた主膳は井伊直弼暗殺に出くわせ、あろうことか水戸浪士から井伊直弼の首を奪い返すという快挙を成し遂げます。
 ホンマかいな。出来すぎているので調べてみると、水戸浪士達は逃げる途中で遠藤但馬守の門前で力尽き倒れてしまった様です(檜山良昭『閑散余話』)。遠藤家では有村次左衛門と首を邸内に運び込み、首を飯櫃に隠した、と云うことらしいので、作者の妄想が入り込む余地は十分にあります。

 この功績により、将軍家茂から直々に『皇妹和宮(和宮降嫁)』が江戸に下る護衛を命じられます。主膳は昔の御庭番仲間、野良猫を養うことに生き甲斐を感じる甚左衛門、賭碁で生活する内記、乞食をする平四郎の三人に助力を仰ぎます。いずれも初老の隠居ですが、甚左衛門は槍、内記は鞭、平四郎は弓の使い手で、主膳は居合いの達人という設定です。本書の主人公四人が揃い、老人パワーが炸裂します。

 浪士団から皇妹和宮を守った主膳に、今度は家茂上洛の護衛任務が命じられます。家茂上洛は文久三年二月ですが、同じ月に清川八郎に率いられた浪士組が江戸を発っています。和宮護衛は京都で主膳と新撰組を組み合わせる作者の企みだったというわけです。ここに『新撰組義勇伝』の舞台が完成することとなります。

 本書の面白さは、前半生で冷や飯を食い、成すところ無く終わった初老の男たちが、舞台を得て織りなす夢物語です。これは、ウダツの上がらぬまま定年を迎えたサラリーマン(などどいう言葉が今時あるのでしょうか)への応援歌かもしれません。井伊直弼の首を取り戻すことも、和宮の護衛も、新撰組とともに京都で活躍させる複線でしょう。
 いずれも落日の幕藩体制に殉じた行為で、主膳達の組みする側が薩長であったならこの物語は意味をなしません。『徳川という沈み行く巨船にあえて乗り込み、時代の逆方向へ向かって船出した』新撰組と行動を共にすることによって、主膳等4人が自分たちが生きた時代に殉じるところに彼らの意地と反骨があるわけです。

 4人は(途中で甚左衛門が切腹して実は3人は)新撰組とともに、芹沢鴨の暗殺、池田屋事件、伊東甲子太郎の粛清を経て、鳥羽伏見、会津、函館へと転戦してゆきます。

加藤廣の『信長の棺』もそうですが、老人が活躍する小説が出てきました。時代でしょうね。・・・★★



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