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BSシネマ 丹下左膳余話 百萬両の壺(1935日) [日記(2012)]

丹下左膳 餘話 百萬両の壺 [DVD]
 『人情紙風船』が面白かったので、“山中貞雄監督の現存する作品3本のうちの貴重な1本”というフレーズに釣られて見ました。昭和10年の制作です。

 丹下左膳というのは、隻眼隻腕のニヒルな浪人ということ以外全く知りません。浪人ですから、侍社会からドロップアウトしたヒーローだと思うのですが、この『丹下左膳余話 百萬両の壺』を見るとずっこけます。林不忘の丹下左膳の物語とは、“柳生家に伝わるこけ猿の壷の争奪戦を描いた物語”らしいです。たしかに「こけ猿の壷」も出てきますし「争奪戦」もあるわけですが、だいぶん趣が違っているようです。
 「 山田洋次監督が選んだ日本の名作100本~喜劇編~」の一編ですから、これは喜劇です。
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 柳生というと柳生十兵衛か陰謀なんですが、この映画では柳生は単なる遠景。柳生家の当主が、江戸の道場の婿養子に入った弟・源三郎(沢村国太郎)に先祖伝来の「こけ猿の壷」をやってしまいます。「こけ猿の壺」というのが、百万両の財宝の隠し場所を記した地図が塗り込められているという代物。それを知った柳生は壷を取り戻そうとして、原作では柳生vs. 丹下左膳の死闘が始まるらしいのですが、今回はありません。源三郎は、汚い壷など捨ててしまえという奥方の言いつけでクズ屋にやってしまいます。婿養子ですから、源三郎はこの奥方に頭が上がらないという寸法。クズ屋は「こけ猿の壺」を長屋の少年安吉?にやってしまい今では金魚鉢という有様。
 壺の秘密を知った源三郎は江戸中を探しまわるハメとなります。がこの探索で思わぬ楽しみを見つけます。源三郎は、壺を探す名目で毎日出かけますが、出かける先は「矢場」です。矢場とは、

 元来は矢を射る所の意。元禄期に社寺の境内,盛り場などに出現し,10矢で4文などの料金を取り,的や糸でつった景品を射させた。楊弓場(ようきゅうば)とも。のち矢場女とか矢取女という接客婦がおかれて売春も行われ,次第に私娼窟化した(マイペディア)

というわけで全くのフーゾク。つまり、源三郎はフーゾクにハマッタということです。

 一方、丹下左膳(大河内傳次郎)ですが、 アウトローのヒーローどころか、矢場の奥、腕枕でゴロゴロしている用心棒兼女将(喜代三)のグータラ情夫。丹下左膳は、フーゾクの用心棒なんですね。おまけに、矢場の女将とは始終口喧嘩で、長年連れ添った夫婦のような関係です。女将が三味線片手に小唄を唄い始めると、頭痛がするの漬け物が腐るのと、茶箪笥の上の招き猫を後ろ向きにしてしまうほどの仲の良さ?。何だかんだといっても、丹下左膳も女将の掌の上なんですね。
 この矢場に通い詰める武士が柳生源三郎。なんだ、そういうことか。

 矢場の馴染み客がチンピラに殺されたことで映画は動き始めます。馴染み客の遺児だということで、丹下左膳と女将が客の息子を引き取とりますが、この息子が「こけ猿の壺」で金魚を飼っている安吉。やっと柳生、「こけ猿の壺」、丹下左膳がつながるわけです。

 柳生一族と丹下左膳の死闘は何時出てくるんだ? ⇒残念ながらありません。この映画は、丹下左膳と矢場の女将、柳生源三郎と奥方という2組の夫婦と、安吉といういじらしい孤児がからむホームドラマです。
 「丹下左膳」という強面の浪人の物語を、換骨奪胎、ホームドラマにしてみせたのが山中貞雄の腕の冴えと云うことになっていますが、本物?の「丹下左膳」を知らないとこの落差は分かりませんね。当然私も知りません。

 ということで、この映画はあまりお薦めではありませんが、“山中貞雄監督の現存する作品3本のうちの貴重な1本”というこでは、見ておいて損はないかもしれません。

監督:山中貞雄
出演:大河内傳次郎 喜代三 沢村国太郎

タグ:BSシネマ
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