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kindleで読書 門田隆将 この命、義に捧ぐ [日記(2014)]

この命、義に捧ぐ 台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡 (角川文庫)
 金門島で中華民国(台湾)と中華人民共和国(大陸)の戦いがあったことは知っていましたが、その戦いに加わり中華民国を勝利に導いた日本の旧軍人がいたことを初めて知りました。本書は、その旧軍人である、駐蒙(モンゴル)軍司令官、陸軍中将・根本博を描いたノンフィクションです。
 
  日本の残留日本軍は、国民党軍や共産党軍に参加して国共内戦を戦い、インドネシア独立戦争、ベトナム独立戦争にも参加していますから、台湾で国民党軍に加わった将軍がいても不思議ではありません。根本より後のこととなりますが、「白団」という旧日本軍人による顧問団が結成され、国民党軍に協力しています。
 
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 根本博の金門島の戦いには前日譚があります。駐蒙軍司令官であった根本博は、1945年8/15の敗戦に際し、在留邦人4万人と駐蒙軍35万人を逃がすために、武装解除の命令に従わず8/21までソ連軍と戦います。在留邦人を置き去りにして逃げた関東軍とは大きな違いです。
 根本は、根本は日本軍降伏の国民軍側の責任者である傅作義を頼り、邦人、軍人の内地帰還を実現させています。根本は参謀本部の二部・支那課に在籍していた情報将校でもあり、傅作義が頼むに足りる将軍であることを知っていたようです。かつての敵国民党軍と手を結び、ソ連軍、八路軍(共産党)を敵に回して40万の軍人民間人を内地に帰還させるというプロジェクトは、偉業と言う他はありません。
 本書では、ソ連軍と戦った兵士、天津を経て帰還した人たちの証言を盛り込んで、この辺りを書いています。40万の日本人の退却、帰還そのものが、ひとつのテーマとなるほどの事件ですから、周辺の政治・軍事状況をもう少し突っ込んで欲しかったところです。

 根本は1946年に復員し、1949年に台湾に渡っています。根本は、国民党政府が大陸から追い落としに会い、共産軍が台湾に迫ろうというその時、傅作義、国民党政府に借りた恩を返すために台湾に渡ろうとしたわけです。この台湾密航にも、ロシア革命の謀略で有名な台湾総督・明石元二郎の息子・明石元長が登場し、スパイ小説、冒険小説の趣です。
 ここでよく分からないのが、台湾行きの話を持込み根本と共にオンボロ漁船で基隆に渡った李鉎源の存在です。自称、国民政府の密使の李鉎源は、根本ともども台湾の警察に捕まってしまいます。台湾を救けるために日本の将軍が来たという噂が広まり、根本は釈放され蒋介石と会見するに至ります(李鉎源の正体は後に明らかになりますが)。

 蒋介石は、日本の軍事学校に留学し日本陸軍の在籍経験を持つ知日派。根本とも識があったらしく、根本を金門島司令官・湯恩伯の顧問に付けます。本書によると、根本は国民党軍vs.共産軍の古寧頭戦をひとりで立案し、勝利に導いています。台湾を共産化から救った最大の功労者ということになります。
 根本の最大の功績は、蒋介石のこだわった厦門を棄て金門島に主戦場を移したことです。蒋介石の命令に背いて厦門を捨てた戦略がこの戦いの勝敗を決したということのようです。
 大陸で4万の民間人の内地帰還を実現させた根本らしい作戦が存在します。金門島の現地の村に立てこもった共産軍を殲滅させるため、根本は共産軍の退路を開いて海岸線に逃し、村民を戦争の巻き添えから救っています。

 不思議なことに、これほどの活躍をした根本の功績が、台湾の正史から完全に欠落しています。

国民党、すなわち外省人が台湾を統治する根拠とは、共産軍を撃滅し、台湾を中国共産党から「守った」ことにほかならない。その最大の金門戦争の勝利が、もし「日本人の手を借りたもの」だったとしたら、どうだろうか。

と著者は推測しています。
 本書の終章で、古寧頭戦役60周年の記念式典(2009年)に、根本を台湾に運んだ明石元長の子息・元紹(明石元二郎・第7代台湾総督の孫)、根本の通訳件秘書であった吉本是ニの子息・勝行、本書の著者・門田隆将の3人が参列を許され、馬英九総統がわざわざ言葉を掛けています。60年を経て、根本博が復権した瞬間です。

「台湾へようこそ」  その時、馬総統は、明石の眼をしっかりと見て、日本語でそう語りかけた

 台北駐日経済文化代表処のサイトにも「古寧頭戦役60周年に日本の軍事顧問団関係者の家族らが台湾を訪問」の記事があります。

 大変面白いです、面白いですが、それはノンフィクションの面白さというより、小説の面白さで少し物足りません。次は『死の淵を見た男―吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日』を読んでみたいと思います。

タグ:読書
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