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映画 彼岸花(1958日) [日記(2015)]

「彼岸花」 小津安二郎生誕110年・ニューデジタルリマスター [Blu-ray]
 『東京物語』 『浮草』 『彼岸花 』 『秋日和』 『秋刀魚の味』、これを小津ワールドというのでしょうね。別に事件も起きず、涙や嘆きのドラマも無く、日本が経済成長の道を歩み始める前の、従って古きよき時代の家族の風景が淡々と描かれます。 小津の作った世界が、TVの普及とともに 「ホームドラマ」へと移っていったのでしょう。

 『秋刀魚の味(1962)』は、婚期を逸しつつある娘の結婚にまつわる父親の物語でしたが、『彼岸花 』も娘の結婚に惑う父親の物語です。前者の父親は笠智衆、後者は佐分利信ですから、父親の性格はかなり異なります。
 平山(佐分利信)の会社に「お嬢さんを下さいと」佐田啓二が現れたことで、ドラマが始まります。平山は婚期を迎えた節子(有馬稲子)に恋人でも出来ればいいと、妻の清子(田中絹代)に日頃言っていますが、イザ恋人が現るとなると話は別。娘が親の許しも得ず結婚相手を見つけたことに腹を立て、頭ごなしに反対します。相手がどうのという問題ではなく娘の独断が許せないわけです。子離れできない父親です。

 平山親子に対して2組の親子が配されます。
 ひと組は平山の中学時代の友人、笠智衆とその娘。娘は、バンドマンの恋人との結婚を反対され家出してしまいます。平山は、娘を心配する笠智衆 のために娘の勤めるバーに行き、娘と恋人の仲むつまじい姿に接します。
 もう一組は、京都の旅館の女将、浪花千栄子と娘の山本富士子。この女将は、娘の幸子に縁談を持ってきては自分で壊し、娘はサラリと受け流すという、親ひとり子ひとりの情愛です。浪花千栄子と山本富士子の、いかにも関西人といった溌剌とした演技は見事です。佐分利信が見せる貫禄と、有馬稲子の清楚とした落着きと比べ好対象です。浪花千栄子は『祇園囃子』でブルーリボン賞に輝きますが、この女優の演じる京都の女将は見事です。

 幸子が、平山と節子の膠着した親子関係に風穴を空けます。幸子は、恋人との結婚を反対され平山に取りなしを頼みに上京してきます。平山は母親の理不尽な反対と幸子の嘆きを聞き、幸子の味方になってしまいます。平山は節子の結婚を軽率だと反対したように、女将に味方し幸子の短慮をたしなめる筈です。ところが、他人の娘となると冷静な判断が下せるわけで、幸子の言い分を認め味方となります。
 この幸子の結婚話は、幸子が節子のために仕掛けた罠だったのです。平山が幸子の結婚を認めるなら、節子の結婚もまた認めなければならないわけです。勝ち誇ったように幸子は節子に電話をします、「お父さんが結婚を許した!」と。

 ここまで、佐分利信の家父長的言動にうんざりしてきた観客の心にも、幸子は一気に風穴を空けるというわけです。
 幸子と節子に破れた平山は、しぶしぶ娘の結婚を認めますが、それでも一言「結婚式にオレは出ない」と。

 上手いです。佐分利信の「父親」には、日本の男が培ってきた責任感と空威張りと痩せ我慢が凝縮しています。小津が描いたのは、そうした伝統的な「父性」が若い世代にいともた易く突き崩される悲しみ、寂しさ、「我儘頑固親父」への挽歌だったのかも知れません。
 とすれば、この映画は「ホームドラマ」ではないことになります。

監督:小津安二郎
出演者:佐分利信 有馬稲子 田中絹代 山本富士子 浪花千栄子 笠智衆 久我美子

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